華籠恋謳

□紅葉
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寒いなぁ、と慶次は肩に掴まる夢吉に呟いた
 

 
久々に戻った京の都の山から吹き下ろす風は冷たく、慶次の長い髪を揺らして行く
 

 
「あー……寒い」
 

 
何処かで熱燗でも呑もうかと身を振るわせながらも道を行く一人と一匹。
すれ違う人も少なく、時折すれ違う人々もどこか急ぎ足で北風に急かされるように歩を進める
 

 
(何か…この時期は物悲しいよな……やっぱり俺は春の方が好きだ)
 

 
秋風は一人の身には凍みる、そうひとりごちながら進んでいた慶次の視界が、焼けた
 

 
いや、正解にはまるで炎の如き色が視界に入ったと云うべきか
 
 

 
眼前に広がったのは赤の洪水、一角に植わっている紅葉だった

 

 
「…すげぇ……」
 

 
それにつられて視線を上げれば山も同じく赤く燃えている
 

 
「…そっか……寒いって、悪いことだけじゃないんだな」
 

 
 
その色は、慶次の脳内に一人の人物を出現させた
 
 
「……会いたい、な」
 

 
燃えるような赤色が何より似合う。
 

 

 

 
「幸村……」
 
 

 
そう呟いて慶次が踵を返すと夢吉もその意図を読んだと見えて嬉しそうに慶次の肩にしがみついた
 

 
「会いに行こうか!幸村に」
 

 

甲斐の国は寒いだろうな、と言いながら愛馬・松風に跨がる慶次は痛いほど寒い秋風にも怯む事なく松風を走らせた

 

寒い秋の日を、二人で過ごす為に
 
 
 
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