遊戯咏
□落花流水・拾壱
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眠り始めて約12時間後
政宗はふっと目を覚ました
隣で元就と幸村がすやすやと眠っているのを見て帰って来たのも気付かない程眠りこけていたのかと考え出して、政宗はどうして自分が此処にいるのか、この部屋に見覚えが無い事に首を傾げた
(俺は…小十郎とこのホテルに来て……それから?)
「!」
(何でアイツの名前なんか…)
頭の中に片倉の顔が思い浮かんだ時に“片倉”と言ういつもの呼称ではなく“小十郎”という名前が浮かんでしまった事に政宗は自分はどうかしてしまったのかと頭を抱えたがふと昨日一日一緒に居て心地よかった事を思い出す
(……嫌では、なかった……)
不思議な事に今隣に彼が居ないことが不安で不安で仕方ない。
その理由を考えるより先に政宗は片倉の部屋に行こうと鍵を持って部屋を抜け出した
(……片倉の所か)
壁を向いていた元就は閉められた扉を見てゆっくり起き上がった
(………全てを思い出した訳ではない、か……)
昨日政宗が片倉と一緒に回りたいと言い出した時から元就は薄々勘づいてはいた。
(やはり、片倉だけではなく我や元親、前田も真田も……少なからずあやつの魂には影響しておろうな)
元就と元親もお互いが小さい頃から傍にいて、それで早く思い出したのだ。慶次もあの叔父と叔母の傍にいるからこそ思い出したのだろう。
「……傍に居たいのだろうな……」
そう呟いて、元就はまた布団に潜り込んだ。
日輪はとっくに出ているが昨日の疲れがまだ残っている…ならば寝たほうが得策、という結論を弾き出すと彼もあっという間に意識を手放した
(…此処だったよな…)
政宗達の部屋の一階上。
その扉をコンコン、と叩いた。万が一まだ寝ていたらベルは不味いと思っての行動だったのだが片倉は直ぐに扉を開けた
「……どうした?」
「………何となく」
部屋の中に招き入れられて見てみればもう荷物も片付けられていて片倉もスーツに着替えている
「……帰る、のか?」
「ああ…用が出来てな。まだ時間はあるが…!」
茶を淹れてくれようと、机に向かっていた片倉の背に政宗は抱き着いた。
すがり付く様に
「俺をまた置いて行くのか…っ」
「……だ、て?」
「傍に居る、って言ったじゃねぇか……俺を独りにするな!小十郎!」
「……!」
“小十郎”
その呼び方をされて片倉はまさか、と思った。
まさか全てを思い出してしまったのかと
だが背に顔を着けてただ泣いているだけの政宗に大丈夫だと直感した片倉は茶を淹れる手を止めた。
「………悪、い…俺何言ってんだか分かんねぇ…て、か…な、んで俺泣いてんだろ、な」
「……泣きたい時は泣いて良い。」
「……帰る、まで一緒に居て良い、か?」
する、と離れていく手を追うように小十郎は振り向いた
「ああ…」