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□表裏一体感情論
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祀木side
一度目のeーテストを終えた僕には、無事に帰ってきた喜びとか安心なんて感じてる暇はなかった。
それよりはるかに勝る脱力感、といってもこれからどうすればいいかわからないことからきているもので。
クリス先輩を事実上見捨ててしまった僕は精神的に追い詰められていた。
その日だけじゃない、思い出すたびにどうしようもない悲しさや自己嫌悪にとらわれてただ泣くことしかできなかった。
それを耐えてきた僕にとって今、二年間失っていたクリス先輩を取り戻せたことは凄く嬉しい。
「ねぇ…祀木」
「何ですか?」
隣にいてずっとだまっていたクリス先輩が急に口を開いたから何事かと思って反射的に視線を向けた。
「ぼくはおかしいのかなぁ」
突然のことに僕は唖然とした。というか"どんな風に"の重要であるはずの部分が抜け落ちているなんて完璧な先輩らしくない。
「抽象的でわかりません」
はっきり淡々と言い返すと、笑っているのか苦笑いしているのかよくわからない表情で僕を見た。
そう言えば初めて先輩と会った時にもこんなやり取りがあった気がする。
あれは確か先輩のアクセサリーを注意した時。
あの時は完全に苦笑いだったと思うけど。
「最初はね、こんなはずじゃなかったんだ」
視線を下におろして呟いた。表情がよく見えない。
だが、続いて紡がれる言葉に彼の心境をわからざるを得なかった。
「ホントはお前を恨んでたはずだった」
あぁ、やっぱり。
当然のことだ。
そう思わないはずがない。
多分僕は今、酷い顔をしているだろう。
「今度はお前を裏切って見捨ててやるって」
影化をしていないからある程度は押さえ込んでいるんだろうが、少なからず今の先輩の中にも僕に対する恨みは残っているかもしれない。
だけど僕はそんなことはどうでもよかった。
恨まれようが何と思われようが、先輩を助けたかっただけだから。
このくらいの苦しさなんて、取り残された孤独には及ばないに決まっている。
「でも祀木はそんなぼくを助けに来てくれたね」
ありがとう。
あと、ごめん。
先輩はそう言った。
何を言ってるんですか?
僕のせいでこんな目にあったのに。
言い返そうと顔を上げたらクリス先輩は僕の頭の上にそっと手をおいて優しく撫でた。
彼にそんな気持ちはないとしても、僕には励まされているように感じられてならなかったから、堪えきれなくて思わず泣きそうになった。
表裏一体感情論
(そんなに優しくしないで)
(自分が惨めになるから)
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