聖禍学園記
□短編
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こんなつきのないよる
ふとおもいだすのは
きみのきれいな
ひとみのいろ
まるいまるいつきのかわりに
ぼくをあいして
しゃらり、と空気が揺れたのがわかった。
今は深夜。とっくの昔に消灯時間は過ぎてしまっていて、辺りは暗い暗い闇の中に沈んでしまっている。種族柄、それを嬉しいと思ってしまうのは、仕方がないと思う。
吸血鬼が愛すのは、真っ赤なちのいろに、自身を溶かす真っ暗な闇。
夜目が効く瞳にうつったのは、夜を羽織った愛しい姿。愛して、愛して、いつか壊してしまうかもしれないぐらい愛しているその姿。そして、自分の命を支える奴隷。
「んー?どうしたの。」
珍しい夜の訪問者についつい頬が緩んでしまう。
「………何でもない」
「あれ、僕の供血日は昨日だったよね。」
「あぁ。おかげでまだふらふらしている。」
そういうと、彼はさらに歩みを進めて、僕の傍らに腰掛けてきた。ふんわりと、自信のない仕種に、彼の不安を知る。
「また、何か言われたの?」
「………いや。」
「いいなよ。言わないとここで押し倒すよ。」
「いつもここで押し倒されてるから、脅しにならないけど。それ」
「じゃあなんなの。前にいったでしょ。僕に隠し事とかしないでって。」
「……………」
暗闇で、彼が上を向くのがわかった。何処を見ているのかと、その視線の先を同じように見てみる。暗い空が窓枠の形に切り取られている。月が出ているならこの時間はここから美しい月がよくみえる。
「月が、でてないな。」
「新月だからね」
「…………」
閉ざした先の言葉が、何となくわかった。
「……………寂しいのかい」
「さぁ。」
「大丈夫だよ。僕が君を守るから。」
「絶対、君を守るから。」
君を。
道を照らす月が出ていないならば、僕が君の手を引いてあげる。
導を示す月が出ていないならば、僕が君の導をえらんであげる。
寂しさを紛らわす月が出ていないならば、僕がずっと傍にいてあげる。
だから、ね?
だから。
「そんな顔をしないで。」
道を、はずれし君を
導が、消えてしまった君を
一人に、なってしまった君を。
決して一人にしないから。
暗い部屋。暗い闇で、人ならざるものになってしまった君を抱きしめながら、僕は、心にそっと誓った。
赤い瞳が、それだけが、いろのない空間でたった一つの輝きを宿す。
美しい美しい。
あかいつき。
『血染め、闇染め』
そう、君を愛している。
ずっとずっと、この命消え果てるまで。
ずっと。
、