短編

□キミノナカ
1ページ/1ページ

何かに怯える事を君は情けないと思うかもしれないね。
君はきっと死ぬことに怯えるだろう
怯えることに怯えるだろう。
何より、生きることに怯えるかもしれない。
重い重い何かは君の中に螺旋を描いて降り積もる。
すると、重いそれは微かな笑みを浮かべ、雪のように軽く緩やかに降り積もり、さらにその笑みを広くさらに深めてゆく。
君は気付くだろう。生きることの辛さと、死にゆくことの気楽さに。

弱さを持つ、ということは。
物語の中のヒーロー達はこぞって同じ事を言う。
弱さを持つ、ということはその中には必ず対照となるべき強さと言うものがあり、弱さを知っているからこそ尚、彼らはその強さを発揮するらしい。
らしい。

君にとってそれはあたかも麻薬のように秘めやかに降り積もるだろう。弱さというその重いものは。そしてさらに君を怯えへと導いてゆく。
弱さはやがて蓄積され、怯えは君の体の形を作る。
怯えは君の分身となり、君を惑わすヒーローになるのだろう。
弱さは武器だと豪語する、あのヒーロー達に。
ヒーローは弱さを武器に何を成すのだろう?

人間から以下呼吸を営みの一つとする動物は、たった一つ、誰もが持つ大きな矛盾を抱えて生きているらしい。
呼吸は、体内に入り、動物の生命活動を行う。酸素というそれがなくば生きることが出来ない。
だが、神は残酷にも。
命を支えるはずのモノで、動物を死へと追い込むらしい。
それはもう、生まれたその瞬間から。
刻一刻と体は死へと進み始める。
この、矛盾の世界で、怯えは孵化をする。

やがて怯えは強大となり、君をのっとる。
君は怯えが既にないので、何も感じはしないだろう。
怯えは死の気楽さを自らの強さで断ち切る。
怯えは生の辛辣を自らの強さで断ち切る。
やがて怯えに矛盾が生じ、矛盾は矛盾を断ち切る。

君はもう感じることはないだろう。
君の中の弱さは怯えとなり、怯えはヒーローとなり、さらにつよくなり、誰もが持つ矛盾を取り込んだ彼は、君に最後に取り込まれようとするだろう。そして、弱さは怯えはヒーローは矛盾は。


やがて、神となる。

そして、君は……

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ