二次創作

□調査物T
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 柔らかな風が静かに脇に流れていく。少し汗ばんだ体を冷やしてくれる、その風はさわさわと色づいた稲穂で乾いた音色を掻き鳴らしながら淡いオレンジのワンピースを膨らませる。体の中にその音色を染み渡らせて私は大きく息吸って、吐く。

 体中の空気をゆっくりと入れ替えると何故か自然と笑いがもれた。くす、と静かに忍び笑いから始まり徐々に声は大きくなりやがて私の声は黄金と呼ぶにはまだ青い部分のある、整然と並んだ絨毯の上に落ちる。美しい世界で軽やかな楽しげな私の声が跳ね回る。

 全てを許容し、拒絶する山。
 誰もが行けない不可侵の空。
 生きとし生ける者を抱きしめる大地。
 育みと営みと進化と破壊の水。
 生きる糧となる金色の分厚い絨毯の稲穂。
 いつも背中をおしてくれた、慰めてくれた青草と枯れ草と森と土の臭いの風。

 空が広くて山が鎮座している。風が吹いて稲穂が踊る。沢山の思い出をくれた。悲しいことも切ないことも、楽しいことも嬉しいことも。私が生きた世界には必ずここがあった。
 ここはそう、あの人との思い出でもあるんだ。
 そして、恋をした場所よ、と笑いながら胸の内で呟いた。

 あの人の愛しい声が耳の中で蘇る。

 きんとあおとふかいみどりとみずくさと。ほかにもたくさんあるいろ。

 ここはいろでみちている。
 このせかいできみはなにいろなんだろうね?ぼくはなにいろなんだろうね。

 ねえわかる?

 いろをもたずにうまれてくるものはないんだよ。



 えぇ、そうね。みんないろを持っている。その人だけのいろを。

 私の笑い声はだんだんと掠れてくるのに、それでも声を止めることが出来ない。やがて苦しくて涙が浮かんできても、止められない。止めない。

 約束したから。最後には絶対笑っていようね、って約束したから。


 今この瞬間に、私は愛おしさを感じる、愛していると感じる。

 だから、私は。

この大切な世界を、大切な思い出を

 ここを守るために…
 あの人がもう危なくないように…










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