まほろく

□しろいろの飴玉
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しろいろの飴玉





 雪よ雪。
 全てを真白に変えておくれ。
 あの醜い罪さえも白紙に変えてしまえるその力を奮って、私の罪をぬりかえておくれ。
 彼が、安らかに眠れるように。
 この白亜の神殿の深い冷たい記憶の底で。


 寒期の空は、雪の雲である淡い紫の雲でいっぱいである。暖炉の火が絶やせないくらいの寒さが続き、部屋にいる時でも分厚いローブは必須となる。

 ふわふわ金髪の、くりくり金色お目々の小動物みたいなかわいい女の子が、好奇心旺盛の性格を表立って発揮するのは、往々にこういった噂の時だった。

 「ねねね、ルミナ」
 「んー?」

 雪が降りしきる夜。窓には部屋の明るさのせいで自分の顔しか見えず、外にある美しいしろいカケラは影も見えない。そのカケラが見えないことに安堵し、だけど何故か残念にも思ってしまう。自分の顔が窓に映っているのをぼおと見ながら、キーリの返事をする。

 「ちょっと聞きたいんだけど」
 「んー?」

 完全に気のない返事をされながらも、キーリはめげずに、いや気にならないのだろう、話を進める。

 「サラヤマとフィッシュって付き合ってるの?」
 「……………へ?」
 「いやねー最近二人がやけに一緒にいるのを見かけるのよね。人目につきにくいところでこそこそ話してたと思ったら、この前なんかサラヤマったら他の男子と話してるフィッシュを半ば無理矢理に引っこ抜いて連れ去ったりとか、目撃情報によると、雪の中で二人で寄り添ってたりしてたって2学年のヘランダ級の女の子が言ってたし、極めつけはフィッシュの首筋に赤い痣らしきものがあったってねー………。」

 びっくりしてしまった。最近あの二人が傍にいないなぁと思ったらなんだ、二人で逢い引きしてたってわけ。
 ふぅ、と頬杖をつきながら窓の外を見つめる。
 あら貴女。なんて顔してるのよ。
 不細工だこと。
 寂しいなんて今更いうつもり?
 彼らの気持ちを知ってなおも、期待させないように上手く立ち回って、でも離れられるのは、相手にされないのは悲しいから適度に”友達”の距離をとって。彼等の気持ちに気付かないふりをして。
 弄ぶように。
 だからそれは貴女が招いたことよ。
 貴女がはっきりしないから。
 あの時のように。

 窓の暗闇の世界でもうひとりの私がくすくすと無邪気に傷を観察してくる。そうね、貴女が言う通りよ
 私は、一人が寂しいから。
 誰かが欲しくて。
 でも踏み込まれるのはイタイから、無関心を装って鎧を頭からかぶりこむ。

 「ね、だからそれとなーく探ってみてよ。」
 「え、直接聞いたらいいじゃない」
 「………えー、だって………フィッシュはともかく、サラヤマはルミナぐらいとしか喋らないし……フィッシュはフィッシュで情報網に引っ掛かってはいるけど、聞いてくれそうな人間の網じゃないし……。ね、ルミナ。お願い」
 「……今度のデザート、頂戴ね」
 「うぅ、高いな……わかった。」

 尋ねるくらいなら。
 大丈夫よね?



 「でも、こうやって改めて探してみるといないものよね。」

 次の日の昼、前向きにキーリのお願いに答えてみようという気持ちになった私はさっそくその二人の姿を探す。一先ずは生活塔へ顔をだす。でも、同学年とはいえ、あっちは術部、こっちは医療部じゃあ、畑が違うから、時間も合わずこうしてみると会うのにわりと骨が折れることに気がつく。
 そう考えるとやっぱり同じ部で級クラスも近いんだからキーリが聞けばいいのに、と思うけど、頼まれてしまったからには無下には出来ないのが性格。いや、波風を起てないために身につけた処世術。

 「いないなぁ……」
 「麗し美少女のルミナじゃない。どうしたの?」

 後ろから女声を必死に作ったような男声。振り向くとそこには、ごつい体つきをした濃いメイクの獣耳をした女男がいた。
 オカマ、という部類だ。

 「あぁ、ナキィ。」
 「またなんかあったの。顔色が少し悪いみたいだけど。」

 ナキィはそういうと、私のおでこに手をあてる。キーリとよく言い争っているところを見かけるけど、ちゃんといろいろ気がついてくれるいいやつだ。女のように細やかな気遣いが優しい。女生徒の中には、私を嫌うものが多いらしいから、そういったトラブルの相談を受けてくれる。お姉さんだ。

 「いや、ちょっとサラとフィーを探していて。見かけてない?」
 「あぁ、ルミナ親衛隊のやつら?」
 「………なにそれ。」
 「聞いたとおりのもんよ」
 「うん………、うん。まぁいいわ」
 「いいのね。結構大規模なものになってきてるわよ。」
 「それで二人は?」
 「うーん……さっき精調のときはいたんだけどね」

 精素制御調節。つまり、精素という力をどれだけ調節出来ているかという授業。その時はいたっていうことは……

 「1の塔(ワス)と2の塔(キリス)の間の、『テースの小道』の棟ね。わかった探してみるわ。ありがとう」
 「あんたが男を探すの珍しいわね。やっとどっちかに決まったの?」

 ナキィが意地悪そうな瞳でからかう口調でそう言った。私の胸のどこかが、きん、と痛んだことに、きっとナキィは気付きはしない。私が気付かせない。
 この容姿であるだけで、追ってきた傷はまだ開いていない。
 だからこそ、隠し通せる。

 私が抱く白い世界のその下の罪を。

 「また見つかったら言っておいて。私が探してたって」

 「分かったわ」

 さて、と息をついてから目的の場所に向かう。幸い『テースの小道』はすぐそこだ。そこからさがしていけばいい。

 「午後の授業はないしね」

 歌でも歌おうかしらん。
 昨日は雪だったけど、今日はとてもいい天気。なら探しついでの散歩だって楽しめる。

 なら、と笑いルミナは日の当たる中庭へ歩きだした。












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