まほろく

□はるいろ独占欲
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あいつは、かわいい。
男みたいな格好して、男みたいな口調して、頑張って男ぶってるけど、たまにちらっと見せる女の子な空気が堪らなくかわいい。

今まで、一つの事に興味を示さなかった俺に、初めて、観察対象が出来た。


「イデヤ!!」
「キーリ、どうした?」
「んーん、何でもない。やっぱり、イデヤのそばが一番落ち着くの」
「そっか。」

ふんわりとした、明るくて、どことなくほっとする笑顔。

そう、その顔だよ。
もう、俺達に女だとばれたからか、あいつから漂っていた緊張感が薄れてしまって、見るからに落ち着いていると分かる。
男、であることに、肩肘を張る必要が無くなった。
だからか、時折見せる顔がすっかり女なのだ。
今も。

「ん。こうやって見るとかわいいね、イデヤ。」
「あぁ。かわいい。」
「うわ、やだやだ。」

俺が肯定の意を示すとアランが両肩をさぶさぶとさする。気持ち悪い、と呟く声聞こえてるぞ。

「あれだと、落ち着かないだろ?」

あはは、と渇いた笑い声をあげてリオが穏やかな笑顔を見せてはいるが…、

「…………リオ、お前、いいのか。」
「………………あんまりよくない。」

ため息をついてリオが甘えるキーリの横顔を盗み見ている。
リオはキーリが好きだ。
でもキーリはイデヤが女だとわかってからもイデヤが好きだ。

リオの気持ちは、いつからか分からないが、それが俺達がつるむまえかなのか、いつの間にか、リオはキーリを目で追いかけて、話し掛けようと努力していた。
キーリは男嫌いで中々実は結ばないのたが。

「最近、あんな顔ばっかするからさ…、男とかすげー見てんの、知ってる?」
「知らねーわけにはいかねー」

鼻をならして、イデヤの方、その向こうを睨みつけた。イデヤに見惚れてたり、目を見張る奴。頭をぶるぶるしている奴は自分はノンケだと言い聞かしているのだろうか。

俺は確かにイデヤをかわいいと思うしふとした笑顔が愛らしいと想う。

そうはいっても俺は、あいつが好きなのかはわからない。

気にはなるし、よくその表情に気を引かれる。

だけどわからない。

あいつの気持ちもわからない。

確かに過去を吐露させたのはあいつが初めてだけど、それだってお詫びとか義理とかそういった類のもんだったし。

わからない事ばかりだ。
ため息。

ちくしょう、気色悪い。恋する女か。


「「イデヤ」」


「な、な。お前この前の学問学の授業のノート取ってない?貸して欲しいんだけど!!」
「あ、あるよ。よかったな、さっき授業だったから手元にあったよ。はい。」
「ありがと!!んじゃさ、明日お礼にイイトコ連れていってやろっか。」
「景色がちょー綺麗な所!!めっちゃ綺麗だからさ、来ない?」
「イデヤ!明日はあたしと遊ぶ予定!」


キーリ、ナイス!!そのまま断れよ


「んじゃ、一緒に行こうキーリ。行くよ。どこ?」
「イデヤ!!」
「それも秘密なんだ〜」

にやにや。
そいつらが目配せしているのが分かる。

断れよ………。
馬鹿だな。


「俺、行こうか。」
「リオ、顔がこわいよ。本当君はキーリが絡むと…………僕が脅しにいこうか?」
「お前も大概だよ…………俺が行くから。」

ちゃくちゃくとイデヤを誘う計画が成立していくなか、俺はイデヤに張り付くキーリを少しのかせて、イデヤと二人の男の間に入った。

音が部屋中に響くくらい、間にあった机を叩く。

イデヤ達がびくっとする。

「………イデヤ。」
「な、なんだよ。」
「お前、馬鹿か?それともその頭はお飾りか。」
「は、はぁ?!!急に出てきて、それはなんだよ!!てめ、喧嘩売ってんのか?!」
「お前は馬鹿の部類に入る。」

イデヤが食ってかかる間に、少しずつ二人の男との距離を離す。
十分に離れた時に、肩越しから、思いっきり睨みつけた。
俺の精素は炎だけど、この時は絶対零度までいった目線で。

「ちょ、おいこらてめぇ、マジぶっ殺すぞ。」

手が小さい。だから拳も小さい。
そんなのが、俺の胸叩いても、痛くない。
背は高い部類に入るけど、俺よりは小さい。髪は短くて、つんつんしてる。

それが、堪らなくかわいい。
かわいい。

この下品な男共は、イデヤを女だとは知らない。
男であったとしても、襲いたいくらいにはかわいい。
ちなみに、俺の色眼鏡を外しても、だ。

俺は、イデヤの腕をのかすと、イデヤを誘った男共に近寄っていった。
まだ俺が急に入っていった事が頭で処理されていないらしく、ぽっかーんとした顔をしている。

「ほい、万年頭春野郎は没収。触る権利もなし。」
「え、は、はぁ?!!」
「かわりにおれのん、やるから。と、言っとくけど、」

俺は体を曲げて、そいつらの耳の高さに顔を寄せた。もっと厳密に言うなら、口を寄せた。

そして、俺がもっとも低いと思われる声で、

「言っとくけど、あれ、俺んのだから。触ったら、潰すかも。」

ちなみに、

「冗談でこんなこといわないから、俺。」

急にどうしたお前、って速さで二人の顔から血の気が引いていく。

後ろでは、まだぎゃーぎゃー奴が騒いでる。気付いてっか?その声が男にしては高い事に。

異性は、異性の前だと必ず自分の姓を強調しようとする。
男なら男らしさを、
女なら女らしさを。

それが、好きな奴の前ならさらに顕著になる。

それは常識な事でかつ、無意識に。

「イーア、答えろ、お前あた…………俺の何処が馬鹿だって?!」
「そーよそーよ、イデヤは馬鹿じゃないもん。ちょとイロイロないだけだもん!!」
「キーリ、それはフォローになってないぜ……??」
「うるさいな、リオは黙ってて!!」
「うるせーな。おい、イデヤ。教えてやろうか?」
「おう。当たり前だ。」
「んじゃ、こっちこいよ。」

ててて、とこっちに近付いてくる゙彼女゙の腕を取って引き寄せた。

ほっぺたに触れるか触れないかのタッチでのリップキスのあと、とびっきり甘い声をだしてみる。

「お前、そんなかわいい声出してると女だってばれるぜ?」
「………………っ!!!」

ぱしーん、と痛々しい音がしたのは言うまでもなく、イデヤの手の平と俺のほっぺたが接触したからだ。



なぁ、お前はどうなんだ?

なぁ、それは、俺が相手だからだと、思っていいか??

俺は、お前だと思うと、一先ず、自分が自分でない行動をとるんだ。

これって、なんだろうな。

なんだとおもう?

FIN

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