まほろく
□第3精 紅色の夕霧
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ふわふわ、ふわふわ。
まるで、雲の上を散歩してるみたい。そんな妄想に、頭の中の別の人間が嘲笑めいた笑いを浮かべる。
辺りはまるで朝もやの中のように何も見えなくて、空気に触れる顔を濡らしてゆく。
ふわふわ、ふわふわ。
まだ、体は地面より上を歩いているようだ。最も、どこが地面かだなんて、朝もやの白のせいで分からなかったが。だけど、それでも一歩、一歩を確かに踏み出している。
顔を濡らすその液体が鬱陶しくて、何度も顔を手で拭うが、その手もすでに濡れているのであまり意味はない。ぐっちょりと濡れてしまった手を見て、ふと喉が渇いた。意識してしまうと、からからであることに気がつく。喉が、というよりもはや体がからからなのだ。
ぺろ、とその水を口に含んでみる。
なんだか、塩辛い。
でも、なぜだか止められない。
唇の周り、親指、人差し指、中指、薬指、小指、手の平、手の甲、
余すことなく。
だけど癒えない。
白いもやにかぶりついた。なんの抵抗もないだろうと思ったのに、意外に弾力のある歯ごたえにびっくりした。
ぢゅう、と吸い付く。
遠慮なく、頬が凹むくらいに、恥じらいさえ忘れて、ただ、自身の体の生命危機を回避するためだけに。
強く、強く。
……?
いま
『イタイヨ、イタイヨ』
ぢゅう。
何かが耳に囁いた?
ぢゅう。
喉を伝う液体に、粘り気が混ざってきている。舌に触れるそれはざらざらとしているようで、喉に流し込みにくい。気を抜くと、気管の方に流れ込んで、詰まらせてしまいそうだ。
しかし、確実にそれはゆっくりと喉の渇きを癒してくれる。からからだった体が、みずみずしさを取り戻して行くのがわかった。
『イタイヨ、アァ、イタイヨ』
今度ははっきりと聞こえた。
だれ、とぼんやりとした意識の中、それだけが唇をついて出てきた。言葉を発した喉が、ねちゃりとからまる。
白い朝もや。
本当に?
しょりしょりしょりしょりしょり。
本当に、これは朝もや?
しょりしょりしょりしょりしょり。
今更に、辺りに響く異音に気がついた。
これは、何の音かしらん?
、