まほろく
□第2精 薄闇色の朝
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ときどき、こうして夢を見る。
懐かしくて、もがきたくなる夢を。
幸せだったあの頃の夢を。
あの子は幸せそうに笑っていて、私もまた、その笑顔が嬉しくて、笑顔をみせる。
小さな家、小さな家族、小さなあの子。
貧しい家、普通の家族、病弱なあの子。
それでも私は幸せだった。大切なあの子が笑っていたから。
その時はまだお父さんもいて、家族四人で貧しかったけれどわっかになって色んな話をした。私は外には行ってはいけなかったから、主に、お母さんやお父さんの話を聞いていた。
私は、隠され子だった。お父さんとお母さんの子供はあの子だけだとなっていた。
私は、忌み児だったから。体に持っていてはいけないものを持っていたから。
普通の子とは、あの子とは違っていたから。
それでも私は幸せだった。
だけど、いつも突然に高笑いしながら悲劇は訪れて、大切な物を掠め取っていってしまう。
二つの、大切なものを。私と、お母さんから。
その日、私は酷く熱をだしたあの子のために、いつもの場所に花を探しに行っていた。切り立った崖の淵に凛と咲く、碧の花を。あの子のために。だけど、そこの花は、昨晩に降りしきった雨で流れていたのだ。
いつもの私なら、なかったよ、と帰るのだが、あの子の辛そうな顔を思い出して、もう少し奥へ進むことに決めたのだ。
帰らずの森、というのは、ただのあだ名じゃない。本当に入ったまま帰らない人も多かったのだ。それに、妖魔も多く住んでいた場所で、それに殺されて、という人もたくさんいた。
後に知るのだが、そこはまだ地図に載っていない”白紙”というところで、冒険者という職業の人が入って危険を確かめてからでないと踏み入れてはいけない、禁忌の森だと。
そこに、私は入っていった。お母さんからも冷静沈着な子と言わせしめていた私には考えられない行動だ。
少しなら大丈夫だろうという魔がさしたとしか思えない、日和見な考えと、そのころにはもう使えるようになっていた自分の力を過信していたからだ。
あの子が好きな花は、知らなかったのだが、とても珍しい花だったのだ。
その花粉は、麻酔薬のような役割があり、少しの間なら病の痛みを忘れさせてくれる。そんな、ある意味では危険な花がそうそう咲いているわけがなく、私はその花を求めて森の奥深くへと入っていき、案の定帰れなくなってしまった。
大地と鋼を持っていた私は、大地の特性である”道引”も、鋼の特性である”方位”ももちろん知るわけがなく、力は空回りしてばかりだった。
不幸中の幸いとはこのことで、私が迷いこんだ森には”肉食系”しかいなかった。私の体に含まれる、自然を司る精素は”肉食”の妖魔からすれば”葉っぱ”同然だ。
もちろん”草食系”がいれば真っ先に餌食になっただろうが、そこは本当に不幸中の幸いだった。
だけど、私を探しに来た人達は、”肉食”にとっては餌にすぎなかったのだ――――――――。
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