二次創作

□とある悔恨
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『とある同級生の悔恨』



独り立ちする資金があれば、喜んでそうしていたと思う。

だけど哀しいかな、そんな財力が齢20の俺にあるはずもなく、うっとうしいことばかり言う家から近い大学にバイトを片手にしながら通っていた。
大学を出たら、帰らなくちゃならない。今のうちに遊んでおきたかった。

一人暮らしすれば、ちょっと帰りが遅いくらいでぐちぐち言われる心配もないのだが、成績が落ちたせいで、留年という壁が目の前に築かれ始めてからバイトも中途半端になっていき、日々の遊び代を稼ぐだけが精一杯になりつつあって、お金も貯まらない。

なんだかんだ、本来の目的を忘れて日々を平和に過ごしていたら、今年が成人式だということに気がついた。

袴かスーツか。

そんなの、何だっていいよ、どうせもうすぐ帰るんだし、と言いながら引きずられていくようにちょっといいスーツを買いに行った。

そうなると現金なもので、早くその一張羅のスーツを着たくて着たくて、そわそわしながら家の人間に知られないようにちらちらとカレンダーを見てはあと何日かなんて数えていた。

成人式といえば、地元の人間。ここに来てしった。

頭の中に過ぎるのは、大きな目のカワイイ甘いチョコレートの少年。

最後に見たのは、高校の卒業式だろうか。

獄寺と山本に相変わらず挟まれて、頭ひとつぶん小さなそいつは寂しそうな顔をして、その卒業証書を眺めていた。

高校に入ってからの沢田綱吉の変化は顕著で、中学から同じように上がってきたはずの、過去にダメツナ呼ばわりした奴らまで、誰も沢田をダメツナと呼ぶ人間はいなかった。

沢田という存在が薄くなったからではない。何となくダメツナとよぶ事に抵抗を感じたからだ。
クラスでも、対して目立つことをしているわけじゃないのに、なぜか皆の視線をひいていた。

誰もが沢田かなかまってほしくて、近くに寄ろうと話し掛けようとしたけど、その度に忠犬が牙を剥いてうなりだすから、それも出来なかった。

野球だけが取り柄だった野球馬鹿は、以前の爽やかな人好きする笑顔の中に、時々黒いものを混ぜるようになりながら、沢田の左側を常に占領していた。

側近(あながち嘘じゃない表現だろ?)二人を常に据え置きながら、纏う雰囲気だけを変えつつ、そのかわらない鈍臭さに俺はほっとしていたのを今でも覚えている。

ずっと見ていた。変わりゆく変化の中で、一つくらい変わらないものがあったっていいじゃないか。
沢田が何かミスをするたび、胸をなで下ろした。

多分、俺は一人さっさと大人に近づきつつある沢田に嫉妬していたのかもしれない。その反面、その大人になりつつある沢田に惹かれていったのも、否めない事実だ。


多分、俺は、沢田が好きなんだ。











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