【リード・ワールド】

□第三話 剣聖と風魔と炎帝
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≪神無月 イク≫

私は今現在イライラしてる。

原因なんてたった一つ…彼、若林 勝のあの一言である。

なんて言った?

彼は、私に、なんて言った?

試してやる?

彼はいったい何様なんだ、と。

私はそう思った。

私は負けず嫌いだ。

それも、自他共に認めるくらいの。

だから…こうやって勝負を挑まれたなら…

(絶対に、負かす!)

そう思った。

「はっ…
そう睨むなよ?
怖い怖い…」

ニヤニヤと笑いながら私に言ってくる。

私はそれがむかつく。

なんだか、見下されてる感じで、すごく、むかつく。

いや…実際に『こいつ』は私を見下している。

確信した。

ああやって仲良くしてる振りをしてながら、私のことを『観察』していたんだろう。

まさに、『観察』

例えるならきっと、実験動物を見るのと同じようなんだろう。

私も、伊織も、『こいつ』にとっては、優稀君以外は全部実験動物と同じようにしか見えてない。

そう…今こうやって戦うことの意味は…

「…気に食わない…」

私は吐き捨てるように、小さく呟いた。

「気に食わない?
そんなものは俺には関係ないな。
君が気に食わなくても、俺が確かめることがある。
そこに、君の意思なんてものは…」

『 必 要 な い 』

その言葉を聞いた瞬間に、私はカッとなった。

その言葉を聞いた瞬間に、私の『怒り』の感情に敏感に反応して、水の精霊が集まり、水球を5個作り出していた。

それらは高速回転しながら『若林 勝』を狙う。

今放てば、確実に体を貫く自身がある。

それでも、私はこの力を人に向かって放ったことはない。

だから今、水球は私の周りに浮いているだけ。

「おぉ、怖い怖い…
一撃で人の体を貫く『水』を5個も、作り出すとはね…」

にやにやと笑いながら私に向かって言ってくる。

彼はまったく怖がってない。

それどころか、両手を肩まで上げて、ヤレヤレというような動作をした。

そんな挑発にしか見えないことをされても、どうしても私にはこの魔法…『ウォーターシューター』を放てない…

もしも防御もしなかったら?

もしも避けられなかったら?

確実に体に穴が空くだろう。

確実に死ぬような傷を負うだろう。

それが、怖いと思ってしまっている…

「…くだらないな、お前」

そんな私を見て、指を指しながら目を細めて若林は、言ってきた。

「この世界は殺し合いが確実にある世界だ。
俺たちのこの学園は戦い方を学ぶ場所だ。
人を殺すための力を蓄えるための場所だ。
それなのに…お前はなにをしてる?
俺に向かってその水球を放つことを躊躇ってる。
…そんなちっぽけな水如きで、俺が傷を負うとでも思ってんのか?」

そう私に向かって言ってから、若林は、ただ腕を振るった。

それだけで、軽い『風』が私を撫でた。

そして、気が付いた…

私の周りに待機させてた水球が、『魔法』が、切り裂かれ、地面に染みを作っていた。

…ただ腕を振るうだけで、私の魔法を容易く切り裂いた。

それだけの魔法使い。

風の魔法。

ここでようやく気が付いた…

私が彼を殺す気で攻撃しても、きっと『水』では傷ひとつ作れない。

『光』の魔法でも、きっと勝てはしない。

それがわかった瞬間に、目の前が真っ暗になった気がした。

悔しさと、悲しさで。

私が両膝をついてしまって、地面を見つめていると、若林は、左手はポケットにいれたまま、右手を上げる。

その右手を抱きしめるように、きっと精霊なのだろう…

薄い蒼色の髪と瞳をもった女性がうっすらと見えた。

本で見たことがある。

あの女性は、風の中位精霊。

私はまだ、下位精霊しか集められないのに…と、そこでもまた私は泣きそうになった。

悔しい。

私も努力したのに、と。

「…つまらん…」

そう小さく呟いて、私に向かってその右手を振り下ろして…風の刃が私に向かってきているのを感じながら、私はなにも出来ずに茫然とみていた…







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