お話

□無題
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あぁ、もうどうしようか。哀しいな、あぁ


無題



十六年前に私に血を分けた象のパパはもう二日前から息をしていなかった。ママはずーっと泣き続けていて、赤く腫れぼったい目をぼんやりと見ながら、ママからパパへの愛の深さを再認識させられた。
でも私はパパが象だった事が嫌だった。パパはたくさんの愛を私にも、もちろんママにも注いでくれてたし、賢くて頼りがいのある素晴らしいパパだったのもわかる。でもねパパ、私はやっぱり女の子なのよ。華奢で髪の毛はふわふわしてて、高くてスッとした鼻にしなやかな指が欲しかったのだ。
ゾウとヒトとのハーフに生まれた私はいつだってイジメの対象だった。でもそれは普通の事なんだ。私がもし純粋なヒトだったら、きっと意地悪でかわいいあの子のゲームに参加する。先生も教科書もイジメは悪い事だってありがたいお言葉をくれるけど、やっぱり誰だって被害者になるなら加害者の方が良いと思うし、あの子は魅力的なのよ。被害者の私だってそれを否定する事なんて絶対出来ない。

私の学校生活はね、ずっとつらかったよ、パパ。いつもいつも怨んでいたの。
パパが昔買ってくれた今でも大好きな本には

『悲しい事は何も無いのです。事象は貴方の外にあるのです。貴方自身が内側に取り込もうとしなければ、永遠に悲しみは訪れないものです。』

て書いてあって、いつも頭の中で唱えていたわ。私は本当にこの一節が好きなの。いまでも好きなの。
でもこの一節が暴力的なのは知っていた。だってそうでもしなければ私はあの環境に耐えられないわ。
パパが居なくなっても涙はこぼれることはなくって、でも悲しい気持ちでいっぱいで私は少し救われた気がした。





こころはあるか





愛と感謝と少しの罪悪感で貴方を送り出すわ。暴力的な話だけではもっと悲しくなってしまう。私は成長したかしら。ねぇ、パパ。あぁ、哀しいよ。

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