お話

□豚男
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ぼそぼそ
ひそひそ


豚男


昔々貧しい牧場があった。ただでさえ良い売値が付かない家畜に5年前からトウモロコシや米の値段が年々値上がりし、もはや牧場は崩壊寸前までいっていた。毎晩悲痛の声で神に祈りを捧げてから何日、いや何年目となるだろうか。希望を捨てかけたある晴れた晩、とうとう農夫の前に神が現れた。

「あぁ神様、どうかどうか私の職を奪わないで下さい。私には知識も知恵も教養もない。私は一生農夫でしか食べていく事が出来ないのです。だからどうかこの貧しい牧場に恩恵を与えて下さいませ!!」

農夫の必死の訴えに神は

「そうか、では明日の朝までにお前をいずれ豊かにしてくれるであろう豚をこさえておく。しかしこの豚、お前が愛情を注がなくてはいかんぞ。お前の心が豊かであればあるほど立派に育つのだ。お前は豚の親になれ、忘れるで無い、子はお前を見てそだつのだ。」

そう言うと神はスッと姿を消してしまった。
農夫は明日が堪らなく楽しみであった。高級キノコを見つける豚か、あるいは真珠でもぶら下げて来るのであろうか。煉瓦の頑丈な家が造れるほどの利口で力持ちな豚だって良い。農夫は胸を高ぶらせながらベッドに潜った。

翌日、朝日が昇ると同時に農夫は飛び起きた。服も着替えず顔を洗うより前に家畜小屋へ走った。

期待と疾走で高揚した心臓が止まった。冷や汗が一気に分泌し、農夫は目を疑った。
あぁ神様よ、どういう事か…
そこには神の言うとおり豚がきちんといた。でもそれはきちんとした豚ではなかった。首から上は豚であったが、両手足は人間のように器用に動き、二足歩行なのだ。鼻を鳴らし口は利けないのだろう。しかしこちらをジッと見つめ

「お前は私の子か」

と問えば目元が優しくなり、ゆっくりと頷くのであった。農夫は昨晩の事を思い出し、蒼白な顔を引き吊らせて

「そうか、よく来たな。」

と震える声で言った。その後家に招き入れ、豚男と朝食を共にした。

農夫は豚男に“ピット”と名前を付けた。農夫は神を恨んだ。当て付けにこいつを“ゴッド”と呼んでやろうかと思ったが、やはり良い暮らしをするための試練なのであろうか、それにしても残酷過ぎる。この豚男が本当に神の使いなのだろうか信用できなかった。

背丈は8才位であろうか。学校には通わせたくはなかったが、子の権利であり親の義務を放棄するわけにはいかない。まして良い暮らしを与えなければ豚男は金なんて運んで来ないだろう。
泣く泣く豚男を学校に行かせることに決めたが、やはり近所の子供達からはイジメの的となり、農夫仲間からも気味が悪いとなじられた。

「私の可愛いピットよ。どうして泣いているんだ。お前が良い奴だという事は私が一番わかっているよ。」

いつも豚男は鼻を鳴らしながら泣いて帰ってきた。そのたびに慰めるのは農夫しかいない。また豚男が来てからというものの家計は一気に悪化していった。豚男の食欲は並ではなかった。農夫も牧畜だけではやっていけず、野菜を育て、花まで栽培しだす始末であった。
農夫はいい加減疲れ果てていた。




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