お話

□ある新聞記事より
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いつかのローカル紙より


私の町にはヒーローがいた。
ヒーローは平和主義者で平等と自己犠牲を美徳とする者であった。
顔にはいくつもの痣や傷があり、糸目にへしゃげてた鼻で、私の2倍もあるかのようなパンパンな大きな顔をしていた。いつか私は昔の写真を見せてもらった事があったが、嘘なのかそうでないのか今とは程遠い顔立ちだった。私は失礼ながら
「傷だらけになるまで我が身を削る必要はあるのですか?」
と聞くと
「これは私の勲章であり、勿論自己満足に過ぎないだろうがそれでも私にとっては価値のあるものなんだよ。でも君には私のようなボロボロになって欲しくないな。その為に私は居るんだよ。」
とヒーローは返した。笑えば笑うほど奇妙な形になる顔であったが、それでも町人から慕われる理由に正直だからという事もあったのだろう。


このころの町では泥棒が社会問題となっており、町人が不安を抱えていた。ヒーローは町人達を助けようと頭を捻り大統領や大臣、そして町人達とも一緒に知恵を出し合った。その結果“全ての財産をヒーローに預け守ってもらう”と言うことに可決され、この結論に“ヒーローは私たちの金をくすねるつもりか”と書く新聞はあったが、耳を傾ける者はごく少数派で最後には町を追い出される始末だった。

町の有り金が全て1ヶ所に収まった翌日、ヒーローは金と一緒に突如姿を消した。
町人達は茫然としたが次第に沸々と怒りが込み上げ、どんどん町が殺気立ち、皆が血眼で町中を探し回った。

昼夜とわず探した甲斐があり1ヶ月後にヒーローは見つかった。森の奥深くの洞窟に隠れていたのだ。そこに金は無く、どこにやったかと問えば隣町で全て使い切ってしまったらしい。
ヒーローはもうすぐ公開処刑される。年老いた裁判官は本当にお前がやってしまったのかと哀しみなのか怒りなのか、悔しそうに涙ぐみながら質問をするが、ヒーローは醜い顔で頷く。観衆から野次が飛ぶや否や処刑台の刃と首が落ちた。

いつか追い出された新聞記者が戻ってきて、町人達はお前の言うとおりだと口々に称え、あの時は悪かったと誤った。記者は顔を真っ赤にして俯くばかりだった。
それからと言うもののその新聞は飛ぶように売れに売れ、どんどんお金が入ってくるようになった。







「私はみんなのヒーローでね、それは君も例外ではないから君を傷付けたりしないよ。」


「ごめんなさいごめんなさい!!」
どんなに、みんなのお金全部稼いだってもう返す人はいないのに。ただ遊びたかっただけなんだよ。大金なんて持ったことがなかったから。追い出した奴らを懲らしめてやりたかったから。









ヒーローはなんてひどい
だから僕の胸は痛むんだ。
だけどこの秘密は墓まで持っていかなきゃ。





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