D灰

□架空の世界
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「・・・イノセンスも敵もいねー世界って事は、テメーもいねぇだろ」
「僕はいますよ。会わないだけで」
「同じことだ」
「屁理屈神田」


僕はその世界を物足りないとは思ったけど、そこまで不服に思わなかった。
これは遠まわしに思われてるって考えていいのかな。
神田も少しはこの世界に愛着があると考えていいのかな。
その神田の愛は誰に向かっているのだろう。
やっぱりあの人?


「神田はあまりそういうことにあまり執着しないと思ってました」
「俺が何思おうが勝手だろ」
「そうですけど、意外だったんです」


本当に意外だった。
神田は蓮の人と、蕎麦のことしか考えてないと思ってたから。あと六幻?
こうやってちゃんと世界にも目を向けていたんだなと思うと、何故か考え深い。
神田の世界に、一応僕というエクソシストが存在していたということにもびっくりだ。
いつもいつもモヤシ、としか呼ばれないから、僕の存在は彼の世界でモヤシぐらいの認識と思っていた。


「モヤシじゃないんですか」
「モヤシだろ」
「でも一応存在は認めてもらっているんですね」
「何が言いたい」
「いえ、特には。でも、僕が貴方の世界に存在していてもいいんですか?」


返事はもらえなかった。
いっそ今会話していることさえ、架空の世界なんじゃないかとさえ思えてきた。
ここは僕にとって都合の良い世界。
神田は僕の話をちゃんと聞いてくれて、神田が僕のことを認めてくれている世界。
何度も夢見た、父母がいる世界よりも、居心地がいいと思えるのは何でだろう。
AKUMAがいる世界でも、神田がいるだけでいいと思えるのはなんでだろう。
こんな感情を神田、しかも同性でエクソシストに抱いていいものなのだろうか。


「僕は平和な世界をいつも夢見るんです。ずっと想像し続けてきた、夢だけの世界を」
「・・・んなのてめえの勝手だろ」
「でも僕は平和なだけじゃ満足できなかった。そこには神田もラビも、リナリーやコムイさんたちが存在しないんです。こんなの、ただのエゴだ」


僕は神田の罵声を待った。
しかし期待したそれが来る事は無かった。
変わりに返ってきたのは、僕を見つめる悲しい神田の目。
どんな気持ちで僕を見ているのかは、全く分からなかったけど、なぜだかとても悲しい気持ちになった。海の奥底に沈められるような気持ちに。


「人間そんなもんだ」
「え」
「人間生きていれば、考えていた以上の欲が出てくる。自然の摂理だ」


確かに人間の欲はがめつい。
でも僕の欲はそんなものじゃ片付けられないんだ。
ただ生きているだけじゃ生まれない欲なんだ。
神田たちを知って、初めて心の底から湧いてくるものなんだ。
その分、執着心もいっそう濃い。
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