D灰

□虚無
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「ラビ・・・?」
「泣いたのか?」


ラビは僕の顔を見てとても痛そうな表情をした。
まるで幼い子をあやすように何度も頬を撫でてくれる。
彼の温度がもったいないほどに温かすぎて、また僕は泣きそうになった。
涙が出そうになるたびに、ラビは僕のまぶたにキスをしてくれる。
恐る恐るラビの背中に腕を回してみれば、いとしそうに髪を梳いてくる。
僕はラビの胸に顔を押し付けた。そして少しづつ胸の鉛を話していく。


「・・・嫌な、夢を見たんです」
「うん」
「僕が、14番目になる夢」
「うん」
「大切な人達を失ってしまう夢」
「・・・貴方を、ラビという恋人を、失う夢」


話していけば自然と走馬灯のように夢が蘇る。
恐怖からか、体が小刻みに震えた。
まだ起きていないのに、これが現実になったらどうしようかと思った。
僕の周りから、たくさんの光が消えていく夢。


いつだったか、リナリーが仲間達の事を世界だと言ったけれど、僕にとってみんなは光だった。
僕が歩む道を明るく照らしてくれる、仄かで温かい光。
そんな光が目の前から一瞬にして奪われた時、僕の世界は虚無に包まれた。
気兼ねなく言い合える神田もいない。
僕も大切な仲間だと叱ってくれたリナリーもいない。
任務から帰ってくれば、「おかえり」と言ってくれる科学者達やファインダーもいない。
そして、僕にたった1つの愛を囁いてくれたラビさえも消えてしまった世界が、そこには広がっていた。
モノクロだけが永遠と広がる真っ暗な世界。
灯りも無いから、道どころか境界線すら見えない場所。


体を悪寒が走り抜けた。夢なのにとてもリアルな。


「あんな世界に1人でいるのは嫌なんです」
「アレン・・・」
「みんなと一緒にいたい。この命続く限りずっと」
「うん」
「ラビと、ずっと」


昔は感じる事の無かった感覚。
嫌われるのが怖い。1人になるのが怖い。
愛想尽かされるのが、怖くて仕方ない。
みんながいなくなったら、僕は歩く道さえも見失ってしまう。
とても弱い心だけれど、とても心地良い弱さ。


「アレン・・・俺はブックマンだから、どこかに居場所を作る事は出来ない」


何度も聞いてきた、呪いの様な言葉。
どうして貴方はブックマンなのだろう。
どうして僕は、ブックマンに恋心を抱いてしまったんだろう。
叶うはずのない恋。叶える事の出来ない恋。
それはどんなに恋をしても、残るのは空しさだけ。
ストレートに言えば、時間の無駄。
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