D灰

□愛しい人
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「僕には貴方が何を考えているのか、分かりません」


確かに先に告白したのはアレンだった。
しかし神田はしっかりと肯定と取れる動作を、アレンに返したのだ。
だからアレンは理不尽だと、嘆いているのだ。


「お前、俺に優しくされてーのかよ」
「そういうわけじゃないです。ただ・・・」


アレンが寂しそうに、泣きそうな笑顔を神田に向ける。
神田はしばらくアレンの顔に見入る。神田はアレンの貼り付けた笑顔が嫌いなのだ。


「・・・寂しいな、って」


アレンは先程の笑顔から苦笑した顔に変える。
アレンは神田が好きで告白したのだ。
付き合いだしてから結構経つのに、それらしい行動や言動が無い事に不安を抱いたのだろう。
別に今の行動に不満があるわけじゃなさそうだが、少し物足りない。そんな感じだろうか。


「ガキだな」
「なんですか! 人がせっかく素直になってるのに」


アレンが軽く神田を睨みつけると、神田が口角を上げながらアレンの右腕を掴み引っ張った。
アレンは神田の急な態度の対応出来ず、そのまま前のめりに倒れては神田の腕の中に収まった。
ようはアレンは神田に抱擁されているのだ。
その事実にアレンはおもいっきり顔を赤く染める。


「ばっ、何してんですか!」


アレンが顔を赤くしながら顔だけを上に向けると、いつもより神田の顔が近くにあったため、さらに心臓を跳ねさせた。
神田が無駄に美形なのも、アレンの心臓に負担をかけた。
段々とお互いの距離が近くなると、神田は唇に触れるだけのバードキスをアレンにした。
本当に触れるだけのキスだったが、まだ15歳のアレンには凄い衝撃を与えた。
これ以上ないくらいに全身を真っ赤にするアレン。
そんなアレンを見て、神田はおもわずおかしそうに笑ってしまった。
アレンは神田が笑ったことに体を硬くする。


「ほら、今のままがいいじゃねーか」
「・・・ですね」


アレンは深くうつむいて神田のセリフに同意を示す。
しかし恥ずかしそうにするアレンだったが、本当に幸せを感じていた。
顔をうつむかせているので、神田には見えなかっただろうが、とても顔が緩んでいた。
さっきまで見せていた、張り付いた笑顔ではない、本当に心の底からのアレンの笑顔だった。


「神田」
「あ?」
「僕、神田を好きになって良かったです」


神田はアレンの言葉を聞いて眉を寄せる。
慣れない言葉を聞いて、少し違和感を覚えたのかもしれない。


「モヤシが気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ」
「言い忘れてましたけど、モヤシじゃありませんよ。・・・ツンデレ神田め」
「なんか言ったか」
「別に」


アレンはゆっくりと神田から離れると、嬉しそうに掃除を再開する。神田もそれに続いた。
喧嘩してた時の雰囲気はすっかり消え、2人の間には、香りに例えるなら甘酸っぱいオレンジのような空気が漂っていた。
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