マ王

□自覚
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「笑うな。そして離せ。離れろ」
「聞けない話だな」


そんな冷たいセリフが聞こえた次の瞬間。
俺の世界が大きく傾いた。


「・・・え?」
「ユーリは儚く、脆く、美しいな」


目を大きく見開けば、そこには綺麗なエメラルドグリーンの瞳。
俺は、押し倒されたの、か? ヴォルフラムに?


「信じられない、という顔を浮かべているな」
「そんなっ、ヴォルフラムと俺はほとんど互角だったはず」


俺の言葉が終わらない前に、手首に強い痛みが走る。


「い・・・たっ」
「軍人をなめるな」


顔に苦痛を浮かべながらヴォルフラムを見ると、瞬時に凍ってしまうような感覚に陥った。


「ヴォルフラム、怒ってる?」
「だったら?」


ここはおとなしくしていたほうが身のためかもしれない。
でもそんな事していたら俺の貞操がやばい!


「あ、う・・・ヴォルフラム」
「何だ」
「退いてもらえませんか?」
「否だ」


やっぱりね。てか、野郎を下に敷いて楽しいのか?
そりゃ見下せるわけだから、気分はいいだろうけどさ。
あと普通俺が上なんじゃないか?
顔からして俺が上だよな?
正直、男としてヴォルフラムに負けるとは思わなかった。


「ちょ、ヴォルフラム。マジで手首痛いって」
「当たり前だ。それだけの力を入れているのだからな。というか」
「な、何だよ」


あー、なんかじろじろ見られてる。
美形にジロジロ見られても居心地が悪いだけで、何の得も無い。
それで何を言い出すかと思えば


「思っていたよりも、ユーリは細いな」
「悪かったな! これでも毎日鍛えてるんだよ!」
「ユーリはそのままで十分美しいぞ? 余分な筋肉など余計なだけだ」
「そういう事を真顔で言うな! てか筋肉を馬鹿にすんな!」


ストレートに口説き文句を言われて、いや違うかもしれないが、顔がとたんに熱を持ち始める。
ヴォルフラムは天然なのか、素でこうなのか。
いまだに俺は分からない。


「大体、ヴォルフは俺の何処がいいんだよ」
「全部だ」


さいですか。言い返す言葉も無いよ。


「だが、最初は一目惚れだから、性格に言えば容姿か?」
「・・・お前等の美的感覚おかしいって絶対」


いつもと変わらないやり取りを繰り返していると、ふと最近思った事が頭をよぎる。
ちょっとした小さな疑問だった。
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