D灰

□虚無
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怖いんだ。僕がいつか僕じゃなくなった時、自分がどうなるか分からないから。
師匠が言っていた。大切な人達を失うかもしれないって。
その中に貴方が入ってるとしたら、僕はどうすればいいのだろう。
僕はその現実をきちんと受け止められるか分からない。受け止められないかもしれない。


その時貴方は、僕との約束を守ってくれますか?
僕が14番目となった瞬間、貴方の綺麗な両手で、僕を殺してくれますか?


君に殺されるなら本望・・・って言ったら、貴方は怒るかな。
ねぇ――・・・ラビ?



「気分悪い・・・」


朝から嫌な夢で目覚めた僕は、鏡で自分の顔を見てビックリした。
ティムが寝ている事を確認してから、慌てて誰かに見られない内に洗面所へ向かう。
知り合いに会わないようにと願いながら、僕は急いで走った。
特にリナリーとは会いたくない。優しい彼女の事だ。泣きそうな顔をして心配してくれるだろう。
そんな彼女の顔を僕は見たくなかった。
そうなってしまった時の上手いいい訳も思いつかない。


「情けないなぁ」
「何が情けないんさ」


聞こえるはずの無い声が空間に響いて、僕の思考と表情が固まった。
声から誰がそこに居るのか分かってしまい、怖くて後ろも振り向けなかった。
しょうがなく、顔を向けずに反応を返す。


「こんな朝早くからどうしたんですか? ラビ」
「それはこっちのセリフさぁ。今5時前だぜ? トイレに行こうと思ったら、急いで階段を下りるお前が見えんじゃん。何事だ!って思って後をつけたら、ここにきたわけさ」
「そうでしたか。それは心配かけてすみませんでした。でも別に大した事じゃないので、大丈夫です」


こんないい訳でラビを騙せるとは思わなかったが、緊張と焦りで上手く頭も回らない。
次々と思いつく単語だけを繋げては、早口めに言葉を発してしまう。
それがかえってラビを不信がらせる要素に繋がったのかもしれない。
明らかに雰囲気が変わったラビがそこに居た。
次にかけられた声は、いつもの明るいものではなく、怒っていることが感じられる低めの声だった。


「今の言葉、ちゃんと俺の顔見て言ってみるさ」
「っ、ラビ」


気配がだんだん近づいてくるのが分かり、次の瞬間には目の前にラビの顔があった。
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