マ王

□春と陛下
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眞魔国に月意識があるのかは不明だが、地球暦に例えればもう3月中旬に入っており、だいぶ晴れの日が多くなってきていた。
この国の王、渋谷有利原宿不利は、根っからの脳筋族なため執務室の窓から外を眺めては体をうずうずさせていた。


それでも彼が欲求に従順と従わないのには訳があった。
今この場にユーリ1人ではなく、近くに双黒の大賢者こと、村田健が目を光らせているのだ。
ほかの従者達はあいにく、花見やらなんやらの準備に借り出されていた。
それもこれも、祭り好きなユーリのために自主的にだった。


しかし、本人が知る由もない。


「もう春だなぁ」
「そうだね。だいぶ気温も暖かくなってきたし、渋谷で言うならば野球日和だろ」
「う〜、外行きてぇ」
「執務が終わってからね」
「村田ぁ」
「駄目」


執務室から出れないユーリがおとなしく椅子に座っているわけもなく、さっきからこうして永遠と村田に交渉を続けている。
そして答えも永遠とNo.だ。


「はぁ・・・。だいたい、みんなは俺に黙ってどこ行ったんだよ」
「フォンヴォルテール卿やフォンビーレフェルト卿は準備。フォンクライスト卿は仕分け人。ウウェラー卿はヨザックと買出し」
「・・・俺も買出し行きたい」
「駄目」


ユーリは今日何かあるという事だけは聞かされているが、詳しい事までは聞かされていなかった。
正直、それが気になって仕事に手がつかないという気持ちもユーリにはあった。
だが教えてくれるものはいない。
兵士達すらその事をユーリが聞こうとすれば、そそくさとどこかへ行ってしまうのだから。


「終わらせたら教えてくれんのかよ」
「うんそうだね。終わったら丁度良いかもしれないし」
「丁度良い?」
「こっちの話」


村田はクスクスと綺麗な笑い方をしながら、顔を顰めるユーリを見つめる。
そんな村田にユーリはますます疑問を抱くばかりだった。


「村田?」


少しだけ距離が開いていたお互いの間を、村田がゆっくりと縮めていく。
それはいつの間にか隙間すら消していった。
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