銀魂

□守りたい
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俺たちは何でも屋の万事屋だ。そりゃ、たまには危ない仕事だって入ってくる。
それを危ないからといちいち断っていたら、仕事にならない。だから法に触れない程度の仕事までなら何でも受けるようにしている。
これでも自分の身を守れるぐらいの力はあるつもりだ。
弾一発ぶち込まれたって死なねぇぐれぇの身体もある。
そう何度も言ってるのに、この男は何故聞かないのか。聞く頭もないのか。
俺は心の中で愚痴りながら、一週間経ってもいまだ目を覚まさない、病室のベッドに横たわった男を見た。


「鬼の副長が情けねーなぁ」


一週間前の早朝に、いきなりジミーから電話がかかってきたと思ったらこれだ。
あまりにも相手の声が淡々と、まるで報告書を読んでるようにしか聞こえないから、最初は悪い冗談か、それともそこまで酷い怪我ではないのかと思っていた。
少しからかいも込めて見舞いに行ってやろうかと病室に向かったら、俺の気配にちっとも反応しやがらねぇ、目をつぶったまま横たわった土方がそこにはいた。


「早く目ぇ覚ましやがれ」


今はかろうじで呼吸をしている状態だと、ジミーは俺を見ながら電話の時と同じ声で俺に伝えてきた。
なんでそんなに冷静なんだと問いただしたところ、返ってきた返事はいたってシンプルだった。
「自分は新撰組隊士であり、監察官ですから。仕事に私情を持ち込めません」だそうだ。
なんとも新撰組はむさ苦しいうえに、堅苦しい組織なんだと思ったよ、俺は。


「これは絶対お前が副長だからだな、うんうん」


一週間ぶりに声に出せた冗談も、静かな病室ではなんの返事も返ってこない。
土方はまぶたを開けることすらしなかった。
俺は起きない男の手に触れてみる。小さな心拍が感じられた。
一週間前は今よりも様態が悪く、手を握った時に、あまりにも低かった土方の体温にびっくしたもんだ。
今はしっかりと肌で温度を感じられ、小さな脈も感じられる。それだけで俺は正直十分だった。
土方がちゃんとここで生きている証を感じられて、それで十分だった。
でも土方は目を覚まさない。


「・・・馬鹿野郎」


俺は土方の手を強く握った。
まるでなにかを祈るように。
医者によれば、もう峠は通り越したので、あとは回復を待つだけだと言っていた。
でもどこかで不安な俺が見え隠れしている。
身体に6発も弾を打たれたらしい。発見された時はかなりの出血量で、もしもの場合も危惧されたぐらいだったらしい。
俺はその時の土方を見てはいないが、想像しただけでぞっとした。
土方が発見されたのは、よく攘夷浪士や天人が行き交う貿易場。
その後の調査によると、どうやらそこ付近で俺の噂が流れていたらしい。
根も葉もないただの噂話だ。たとえそれが俺の悪口だったとしても、全く気にしない。
噂なんて一時にすぎないからな。
でもこの男はそんな誰かの噂話にキレてしまったらしい。
自分のことでもないのにこいつは。


「・・・名前も知らない奴にキレんなっつーの」


結果的には、俺の噂なんかのせいで、土方は生死さまようことになったわけだ。
それはかなり後味が悪い。俺はまた、大切な奴を見殺しにするところだった。
それだけはもう味わいたくない。
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