CLANdestine

□中
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「そういえば体調は大丈夫なの?

ご両親の…お二人が亡くなったことがショックで身体を壊してたって聞いてるけど、大丈夫?」

「…え」

「あ、無理して答えなくていいんだよ!ほら、『部屋から出るのも難しいくらい体調が悪い』って言ってたから…心配してて…」

「…誰がそれ言ったの?」

「枢だけど」


予想通りの答が返ってきて、あぁそういう筋書きになってたんだと思った。同時に新たな疑問が生じた。自分は一体どれほどの間、枢に隠匿されて過ごしていたのだろう。


「心配してくれてありがとう。もう大丈夫。…それより、ねえ、ちょっと不思議なこと、聞いていい?」

「何なに?」

「あの夏至祭って何年前だったっけ?記憶があやふやで…拓麻くんは覚えてる?」

「あ、初めて会った時の?あれはねぇ…僕らが十歳になるときだったから、人間の年で言うと八年くらい前かなぁ」


八年。
その言葉を聞いてくらりとした。

拓麻に会ったのは彼が九歳の時で、枢に抱かれたのはわたしが十五の時。悠と樹里が死んだのは十六の時だから、計算すると、わたしは人間の年で三年ほど牢に居たことになる。

三年.短いようで長かった日々を、わたしは世界から隔絶されて生きていたのだ。変化を知覚できない牢の中で過ごしたから余計長く感じたのかもしれない。


「…昼も夜も無かったからね」

「へ?あ、夜間部のこと?

そっか、理知ちゃんが元気になったってことは、春から一緒に編入するんだね。楽しみだなー!普通科とは言っても人間と一緒に学校に通ったことが無いからさ、僕もうドキドキしちゃうな!」

「やかんぶ?」

「黒主学園のこと!」

「くろ、す、がくえん…」


拓麻が挙げた名称を反唱する。口馴染みの無い名前だったけれど聞き覚えはあった。


「…ひょっとして、ハンターの黒主灰閻と何か関係でもあるのかしら」

「ああうん、黒主さんは学園の理事長だよ。彼の一存で夜間部設立を決めたんだってね。ハンターを引退して表家業に専念してるよ。

枢に連れられて時々会いに行くけど、すっかり平和慣れしてる感じでさ。今は義娘の優姫ちゃんと、居候の男の子と一緒に暮らしてるみたい」


その言葉を聞いて、思わず瞠目した。三年ぶりに口を聞いた、枢以外の人物からもたらされた情報は驚くべきものばかりだった。まず、わたしが三年間牢に閉じ込められていたということ。黒主灰閻がハンターを辞めて、学校の理事長をしているということ。学園には「夜間部」という、ヴァンパイアのためのクラスがあって、そこに枢も拓麻も入学するということ。そして何より、「優姫」と呼ばれている女の子が黒主理事長の義娘であるということは、おそらく――


「ねぇ、拓麻くん、その『優姫』ちゃんって、にんげ「そこに居たんだね。探したよ、理知」――!」

「あ、枢」


はじけるように振り返ると、背後に穏やかな笑みを浮かべた枢が立っていた。一見優しそうな表情は病み上がりの妹を気遣う兄のように見える。

でもわたしには分かっていた。はっきり理由は言えないけれど、枢は多分、怒っている。


「拓「一条、理知の相手をしてくれてありがとう。彼女も楽しんでいたみたいだし。でも悪いけれど、理知はまだ病み上がりだから失礼させてもらうよ」」


わたしの言葉を遮って捲し立てた枢に、拓麻は、いや、そんなことないよ、僕の方こそ気が効かなくてごめんね、と笑顔で返事をした。じゃあね言ってと去っていく拓麻に、待って、まだ行かないでと引き留めようとしたが、枢に肩を掴まれ、身動きが取れない。ぐっ、と詰が肩に食い込む。仕方なく枢に色々尋ねようと振り返ると、一言も言葉を紡ぐより早く視界を蝙蝠に覆われ、目の前が真っ暗になった。



『外の世界』中編
July 28th, 2012
Wed. August 1st, 2012 公開
理知

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