CLANdestine

□違和感
1ページ/2ページ

きっかけは多分、そう、私がまだ九つだったときに起こった出来事だったと、思う。

ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー

「わたしね、大きくなったら悠お父さまのお嫁さんになるの!」

瞳をキラキラさせながら堂々と言い放ったのは、まだ九歳になったばかりのわたし。この日も、例によってわたしはお父さまと一緒。わたしがお母さま役、お父さまはお父さま役という、世間でも極一般的なままごとをしていたのだ。お母さまは偶々席を外していて、枢お兄さまは少し離れた所で、生まれて未だ間もない優姫に絵本を読んでいた。

『大きくなったらお父さまのお嫁さんになる』そう宣言すると、お父さまは少しびっくりしたような表情をした。

「急にどうしたんだい?」

おままごと、もとい、お父さまとの夫婦ごっこは同年代の友人の少なかったわたしの定番中の定番の遊びだった。でも、あまりにも外の世界というものに接したことも関心を持ったことも無かったわたしは、今まで『結婚』とか『将来の夢』とか、そういった類のことについて語ったことはなかったのだ。

「あのね、昨日ね、ご本で読んだの!『いねむりのシンひめ』でね、魔女の呪いにかけられたお姫さまがいるんだけれどね、それをね、王子さまが助けるの。それでね、えっと、いじめられたりとか、ママ母?に、反対されたりするんだけど、愛し合ってる二人は結婚してめでたしめでたしなんだって!」

「なるほど。童話の王道だね。…多分、理知は『眠れる森の美女』と『シンデレラ』を読んだんじゃないかな」

「そうなの?違うの?あ、だからね、わたしも大好きなひとと結婚して、『めでたし』になりたいの!
それでね、理知は悠お父さまが大好きだから、結婚相手はお父さまがいいの!」

小さな世界に安寧を得ていたわたし。来るべき未来がどうあり得るか、いかにあるべきか、誰かに自分の予測の可能性や構想を初めて提示した。幼いわたしの既知の領域はとても狭隘なもので、父が大好きだったから、この結論はある意味当然だったと思う。それに、何時だって甘やかしてくれる父から愛されている絶対的な自信があった。ところが、返ってきた言葉は意外なものだった。


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ