朽ち果てるまで Book

□心の鍵
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うららかな春の日、私は今ルーベンス邸で紅茶を啜っている。とても、美味しい。いつものこと。ただ普段と違うのは、今回は珍しく私の方から出向いたことだ。

目の前にはルーベンス公爵。一緒に紅茶を飲んでいるけれど心なしか顔が少し赤い。ていうか、さっきから妙な冗談ばかり飛ばしてる...気がする。

「い、いやー、今日もいい天気ですね〜!」

「そうですね。あっという間に春になりましたね」

「せ、先日、アロイス・トランシー邸にお邪魔させていただいたのですが、先方にハンナとかいうメイドがおりまして、」

「メイド、ですか?」

「そうです!居たんです!メイドがメイ(5月)に!

なーんちゃってっ!あははぁ〜!」

大丈夫かこいつ。

...と思ったが口には出さなかった。というか、正直に言うべきでない。代わりに私は肯定と取れなくもない微妙な笑みを張り付けてカップの紅茶に微笑みかけた。そろそろ潮時かな、失礼の無い程度には公爵の話に十分付き合ったし。どう切り出すべきかしばらく悩んだが、ここはもう直球に本題に入ってさっさと帰ろう、私はソーサーにカシャリと空のカップを置いた。

「あの、「あああのっ!よければこのまま庭を散歩しませんか?!新しい花を植えたんですっ」...はぁ」

言えなかった。仕方なく私は公爵の提案どおりテーブルを立つ。彼は面白くない冗談ばかり言っていたけれど、相変わらずエスコートだけは完璧だな、と思う。



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