Fleur D'Anemone Book

□でも、できない
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本当は、私のそばにいて欲しい。


ずっと。
ずっと。

ただそれだけを夢見て、この世界に生まれてきたのだから。


……これが私の本音。本当の心。いくら言葉で、理屈で包み隠そうとしても、この世で生を受けた瞬間から絶対的に確立された私の唯一の願い。いいや、たった一つの私の価値観と言っても過言ではない。彼が優姫と共に生きることが分かっても、急速にアクチュアリティーを失うことはなくて、むしろ、枢に対するこの想いはどんどん強くなった。

それでも、それを言うことはできなくて、


あなたが大切だから、


誰よりも、何よりも、大切だから、
だから、


「枢の居場所は、優姫のとなり、だよ」


強い決意で放ったはずの言葉。
でも、絞り出した声は、情けなく震えていて。
それでも、それを振り払うかのように私は言葉をつないだ。


「本当に大切なものを、間違えちゃ、駄目、だ、よ、」


自分の言葉なのに。


「……っ、さようなら」


――――耐えられない
私は踵を返して会場に向かった。この言葉を言ってしまったから、もう枢のそばにはいられない。

早足で、まるで逃げるように扉を目指す。

ううん、違う。逃げるの。
本当は、さよならなんて言わずにずっと枢のそばにいることだって出来る。
でも、私は弱い。
優姫と枢が愛し合っているのを、ずっと見ているなんて、

私には、できない。

溢れそうになる涙を枢に見られたくなくて、下を向いて駆け出した。

逃げなくちゃ。
早く、早く。
どこに行けばいいのかは分からないけれど、ここにだけはいられない。

そのことだけを胸に彼の横を駆け抜けようとした、そのとき。

「っ、放してっ、」

腕を掴まれた。

「っ!」

抵抗したけれど、敵わなくて。
手を引かれて、
そのまま身体を引き寄せられて、

立っていることはできなくて

バランスを崩した身体は、倒れこんで、


――抱きしめられた。


「っ、だからっ、かなっ」


「!」

繋ごうとした言葉。

『本当に大切なものを、間違えないで』

でも枢は、それを言わせてはくれなくて。

「大切なもの、ね……」

独り言を囁くように、枢が小さく呟いた。
すると突然、枢の胸に埋められていた顔が自由になった。視界が明瞭になる。
気付くと枢の綺麗な顔が目の前にあった。

「ならば、姉さん」

その綺麗な瞳で、口で。


「僕と共に、永い永い時を、生きて?」


「!!」




真実


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