Fleur D'Anemone Book
□嫉妬
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三日前。
「あの、お姉さま、このドレス、おかしくないですか?」
太陽もまだ暮れきっていない夕方、この日は早くから私の家、玖蘭の屋敷の部屋で優姫はドレス仮縫いをしていた。今回の夜会のためにあつらえた淡いピンクのドレス。枢が直々に選んだこともあり、可愛らしい優姫にはこれ以上ないくらいとても良く似合っている。…枢が選んだ、その事実に思わず顔が歪む。
「……おかしくなんかないよ」
そう言い、くるっと体を反転させ、下唇を噛んだ。優姫に、…あの純粋な娘に、酷いことを言ってしまわないように。
私の醜い嫉妬を見せないように。
そんな私の様子に優姫が不安そうに声を曇らせる。
「……でも、」
「おかしくなんかないってば。とても似合ってる」
「……なら、どうしてこちらを見て下さらないのですか……?」
「お姉さま?」
私の中で何かが弾けた。まるで走馬灯のように、静かに降り積もっていた思いが脳裏を駆け巡る。悪意の無い、優姫のその一言で今まで胸に秘めていた醜悪な思いが、全部全部、流れ出た。
「似合ってるって言ったでしょ!他に何て言ってほしいのよっ!!」
近くにあった花瓶を掴み、花も水もそのまま、思いのまま優姫目掛けて投げる。花はバラバラと落ち、花瓶はすぐそばの壁に当たり粉々に砕けた。
「お、お姉さま?」
驚きのあまり目を見開く優姫。血のにおいがした。破片で優姫の頬がわずかに切れたようで、甘美な香りが漂う。
少しの後悔と、多大の罪の意識。それでも激情はおさまらなかった。それどころか目の前の優姫を、この女を、もっともっと傷つけたい、メチャクチャにしてやりたいとさえ思った。
「呼ばないで!!私はあなたのお姉さまなんかじゃないっ!!純粋で、汚れなくて、素直な優姫には似ても似つかない、汚くて卑劣で、最低な女よ!」
純粋な妹。
それがこんなにも、憎い。
「お、お姉さ、」
気が狂いそうだった。
「呼ばないでって言ったでしょっっ!まだ分かんない?!バッカじゃないの?なら、教えてあげる。あんた、邪魔なの!!」
「大っっっ嫌い!!!」
分かってた。こんな事言ったって意味は無いって。
優姫のせいじゃないって。
枢は絶対に、私を選んでくれない、って。
なのに、一度溢れ出た言葉は、
止まらなかった。
そのとき、最悪のタイミングで枢が入って来た。本当に最悪だった。割れた花瓶、散らばった花、そして何よりも血を流して私の言葉に傷ついて涙ぐんだ優姫。修羅と化したその場を一瞥して、
「何の騒ぎ?」
とわざとらしくのたまった。何も言えない私に軽蔑の眼差しを送り、そっと優姫の肩を抱いて部屋を出た。
君を信じて待ったよ