Fleur D'Anemone Book

□貴方を愛したの
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ほんのりと頬を染める少女。そんな彼女にやわらかく微笑む青年。
傍から見ていても、この二人が想いあっているのが、分かる。
そんな初々しい二人が婚約する。なんて目出たいことだろう。


……これが、優姫と枢の二人でなければ。


―――――
――――
―――


私は、もともとこの世界の者じゃない。

信じられないかもしれないけれど、「私」はもともと普通の女子学生だった。本や漫画が好きで、よく物語のキャラに報われない恋をしていた。Z軸をもたない思いの対象だからそれはあたりまえのことなのだけれど、一生届くことの無い想いの不条理さを嘆かずにはいられなかった。

友達からはオタク?とからかわれてたけれど。


何度か現実での恋をしようと試みた。けれどもそれが二次元コンプレックスの怖いところで、クラスのどんなかっこいいひとよりも常に上を行く存在が私のすぐ傍の紙上に居たから、スパイラルから抜け出すのは無理だった。…むしろ現実の男の子を見る度に、嗚呼あの人だったら、とこ考えずにはいられずにいたずらに日々を過ごしていた。


取り分けヴァン騎士の枢が大好きで、何度も転生トリップを夢見た。

それがある日、突っ込んできた突然車に轢かれて。


気付けば私は、「ヴァンパイア騎士」の世界に、しかも枢の姉として転生していた。


最初はもう皆に会えないって思って悲しかったけど、それでもこれで枢の恋人になれる!って思い直して、すごく嬉しかった。


純血種だし、その上姉だし。子供の頃からずっと枢を見ていられるし、何より玖蘭なら姉弟婚推進でしょ?もう直線ルートだと思ってた。


それが……


「ああ、あの御二人は本当に絵になる」

ワイングラスを片手でちゃぽんと揺らしながら、何人かで話していた貴族の一人が呟いた。

「ええ、本当に」


……どこでどう間違えて、こうなったのだろう。


先ほどの貴族が再び口を開いた。

「私としては自分の娘を枢様の妾に、と願っていたのだが」

「私も、自分の息子が優姫様のお目に留まれば、と思っていたのですけれど、」

あのお二人なら完璧だわ、と口々に彼らは言う。


「それに、これで玖蘭の姉君のお相手がいなくなった」

「孤独な一輪の花……是非我が息子をあてがいたいですな」

「……っ」
そんな数々の祝福の声や欲望の呻きに耐え切れず、私はバルコニーへ出た。心を乱す貴族の声は遠のいて、まだ少し肌寒い夜風が、私の頭を冷やした。
だあれもいない、ひとりの世界。
それに浸るには、十分過ぎるほどだった。

ぶわりと吹いた風に、思わず涙が滲んだ。

「……」

生まれてからの十と数年を思い返した。

枢が歩いた日。
枢が私の名前を呼んでくれた日。
枢が初めて私を好きと言ってくれた日。

優姫より枢のことを知っている気でいた。

でも、そんなの、気のせいだった。
一方的な思い込み。独りよがり。

馬鹿みたいだ。


なにやってるんだろ、私。



前世でヴァン騎士を読んで。

独りであの道を進んでいく枢を見るのが、悲しくて。

もしも私がそばに居られたのなら、絶対、あんな事をさせない、って思って、

その想いの強さで転生トリップまでしたっていうのに、


「何やってるんだろ、私。」


報われない恋ばかりをしていた日々に、さよならを告げて。
今度こそ、誰を傷つけても、手に入れるつもりでいて。


なのに、枢が選んだのは、優姫。


優姫は零が好きなのに。
優姫が過去の記憶の中で、枢に会ったのはほんの一瞬だけなのに。


「何で……」


しかも私は最悪だ。
優姫は何も悪くないのに、彼女に嫉妬した。




嫉妬


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