敵同心。

□5. 巡り会ひて
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5. 巡り会ひて


人を、『考える葦』と表したのは誰だったか。


出逢ってはならない出逢いを、交わってはならない道をその人と共にするとき、人は一体何を考えるのだろう。投げられた采、気まぐれな、小石のさざ波が運命までもを飲みこむ大波となって蘇ったとき、人は、何をもって行動を決めるのだろう。紅と薄紫の二つの瞳が重なり合う直前、逸る鼓動を他所に頭に冷めた声が静謐に囁いた。

(…そんなこと誰にも分からないわ)

でも。

どうすることも出来ない出会いを、人間の意志を超越して、幸不幸の感情を与える力を、人は運命と呼ぶのだろう。


ーー私は身をもって知ることになる。


ヴァンパイアというモノがどういう魔力を持つ存在か。瞳に囚われるとはどういう状態を指すものなのか。夜の王を前にして、ヒトという生きものはどうなってしまうのかを。


そして『恋』とは決して、するものではなく、落ちるものであるということを。


ーー今はまだ知らない。


その一瞬に起こった現象を、それを表現する語彙を、術を、この時の自分は持っていなかった。



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