敵同心。

□2. 既存の枠組みに当てはめる
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自分がハンターであるというのは物心つく前から知っていた。知っている、と言ってしまうのは語弊があるかもしれない。本能的に悟っていたのだ。錐生という家の、優秀なハンター家の長女として生まれ、私は幼い頃から狩人としての手ほどきを受けてきた。銃の打ち方、剣の構え方、身のこなし、矛の扱い方――自分で言うのもなんだが、血筋とか家柄とか、そういった類のものを差し引いても私の素質は狩人として秀逸しており、早く戦力になるようにと、ありとあらゆる手技を叩き込まれてきた。
 
私が初めてヴァンパイアを狩ったのは、まだ七つの時だ。正確に言うと事故のようなものだった。さすがに、いくら悪名高いハンター協会といえど、年端も立たぬ弱冠七歳の少女に狩りを命じるほど惨たらしい人々ではなくて、私は狩ったのは、同じハンターである父母に恨みの念を抱き、我が家を襲撃したヴァンパイアである。たまたま留守番中だった私が玄関の扉を開けると、そこには死人のように非人間的な、狂気と欲望に底光りする、血色の瞳があった。
 
血に飢えた、ヴァンパイア。
 
私は躊躇わず、その時持っていた対ヴァンパイア用の銃の引き金を引いた。ぱんっ、乾いた銃声が響いた。今にも跳びかかろうとしていたヴァンパイアは一瞬驚いた顔をしながらも、何が起こったのかすらわからなかったのだろう、狂喜の笑みが消える間もなく灰になったのを覚えている。

自分が仕留めた獲物を目の前にした七歳の私は何の感情も抱かなかった。自責の念とか、憐れみとか、恐怖でさえ感じた記憶は無い。自分でも本当に可愛げが無いと思う。それどころか、その時、命というのはこういうものなのかもしれないとすら、ぼんやり思った。

人もヴァンパイアも、「何か」を求めながらーー無限の可能性を夢見ながら、そのほとんどを実現しないうちに人生の秋が訪れ、散っていく。死を避けて通る道など存在しないのだ。限りある生を持つ生き物はどう足掻いても世界の精華に辿り着くことは叶わず、結局、生まれ落ちた場所に跋扈する既存の枠組みに身を置くしか、生きていく方法は無いのだろう。
 
玖蘭枢という男を見た時もそう思った。純血種、「玖蘭」という家名、当主――ヴァンパイアの頂点に君臨する独裁者であり、比類なき王は吸血鬼界を成立している根本原理に他ならない。神秘、そう言いきってしまっても差し支えない男は、きっと、他者の作り上げた偶像を演じ、矜持と思い込んで生きるしかできないのだろう。
 
親近感が湧き上がると同時に強く心が惹かれたのも確かだった。

あぁ、この男は私と同じだ、と。
 

 Sun. May 20th, 2012
理知

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