番外編
□町に出掛けました。
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自分でも忘れかけていたが、一応俺も『女』という生き物なのだ。…と、思う。
だから今の状況には、結構不満があったり無かったり。
………ごめんなさい、ちょっと不満あります。
「お風呂入りたい。服も着替えたい」
「…………」
ラザリスが「は?」みたいな視線を寄越してくる。うう、負けそうだ………いやしかし、ここで諦めるワケにはいかない。
数日間洗ってない髪はなんだか重いし、服も身体もあちこちに草やら泥やらがついている(しかも取れない)。
流石に、これ以上は俺自身が我慢出来なかった。
「せめてっ…せめてお風呂に入りたいですラザリスさん…!」
「なんで僕に言うのさ」
「一人だと解決出来そうにないから」
ラザリスはほら、俺よりはこの世界の事知ってるでしょ?
そう言うと、ラザリスは深ーいため息を吐いた。…ラザリス、お姉ちゃんちょっと傷ついた。
あうあうと言葉にならない声を出していると、ラザリスはいきなりすっくと立ち上がる。実は今まで座ってたんです。ラザリスの体育座りの可愛らしさは破壊力抜群でした。
そこ、意味不明とか言わない。
「………ほら」
立ち上がったラザリスは、俺の方に手を差し出す。
何だろう。あれか、「ポチ、お手!」みたいなアレか。とりあえず、戸惑いながらも差し出された手に自分の手を重ねた。
「う、わ」
ぐいっ、と引っ張られる。
そして、一瞬で景色が変わる。
俺が完全に立ち上がった瞬間、ラザリスの領域である白い大地もそこの住人も消え失せ、変わりに見えるのは商店街の入り口にあるような華々しいアーチ。
どこかの町、だろうか。それなりに人が居て、それなりに栄えてそうな感じ。
久しぶりに見るヒトの町にちょっと、ほんのちょぉぉぉっと(ここ重要)感動していると、ラザリスが俺の背をぽんと押した。
咄嗟に反応出来ずに、俺は二・三歩前に踏み出す。
「ラザリス…?」
不可抗力でアーチをくぐってしまった俺は、振り向いてラザリスを見る。彼女はそっぽを向いていた。その横顔がどことなく拗ねているように見えるのは、きっと目の錯覚とかじゃないだろう。
「……行けば良いじゃないか。僕はここで待ってるから」
…嗚呼もう、なんて。
「……ラザリスも、一緒に行かない?俺一人じゃ寂しくてさ」
「…嫌だ。なんで僕がヒトの町なんかに行かなきゃいけないのさ。用事があるのはスズメだけなんだから、スズメ一人行きなよ」
「だから、寂しいんだってば。ねぇラザリス、一緒に行こう?お姉ちゃんからのお願いっ」
顔の前で手を合わせて頼み込むと、ラザリスは渋々、でもどこか嬉しそうに頷いた。
「仕方ないなぁ…。…本当に、困ったお姉ちゃんだよ、スズメは」
「あはは、褒め言葉として受け取っておくね」
…嗚呼もう、なんて。
なんて可愛いんだろう、この義妹は!
「あー、もう!ラザリス大好き!」
「煩いなぁ…。離れてよ、お姉ちゃん」
文句を言う割りには、ラザリスも少し楽しそうにしてた。気がする。
町に出掛けました。
(因みに、服は彼女と対になる、黒い色のものを選んだ)
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