番外編
□美味しくいただきました。
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「ねぇ、ラザリス」
「何、スズメ」
「……お腹空いた」
…というワケで、俺とラザリスはコンフェイト大森林に来ました。
見渡す限り木、木、木…。
「うわぁ…まさに大森林…!」
「意味分からないよ、スズメ」
ラザリスからツッコミをもらった俺は、ごめんと一言謝ってから草むらを掻き分ける。
食べられる草とかキノコとか、なんかそういうのがあれば良いなぁ、と思っての行動だ。
…まぁ仮にそういうのがあったとしても、食べる食べられないの区別が出来る程の知識は有していないというのが本音だが。
案の定、掻き分けた所に生える草も俺には雑草と見分けがつかない。なんてこったい。
ぐぎゅる、と腹が鳴った。
「…スズメって、意外と馬鹿だったんだね」
「意外と、って何さラザリス。見た目と中身は必ずしも同じとは限らないんだよ。だから笑うの止めなさい」
笑いを噛み殺しているラザリスに対して、ぐぎゅる、ともう一度腹が鳴った。畜生、恥ずかしい。
仕方ないから、木の実を探す事にする。林檎とか蜜柑とか、なんかそういうのがあれば嬉しいな。というか、あれ(命令)。
「そういえば、ラザリスって何食べてるの?」
上を向いて歩きながら、俺はラザリスに尋ねた。
近くでプチプリを踏んづけてたラザリスが「ん?」とこちらを見る。
…何してんの、あの子。
「いや、ラザリスもお腹空かないのかなって思って」
「僕?僕は…自分からそう思った事は無いよ」
「え?どういう事?」
視線を木の枝からラザリスに向けると、ラザリスはまたプチプリを踏んでいた。しかも今度は両足で。
…いやいや、本当に何してんのあの子。
「僕が“僕”として生活し始めた時は、僕をディセンダーだと勘違いした馬鹿なヒト達が、勝手に食べ物を持って来たから。
だから、僕は空腹と感じた事は無いし、自分から食べようと思った事も無いんだ」
「…ラザリスさん、それ、初耳なんですけど」
「そう?」
ヒールでプチプリをぐいぐい踏みつつ、ラザリスは事も無げに言う。
…あの子、Sに目覚めたの?
まぁ何にせよ、ラザリスも食べる事は出来るんだし、彼女の分の食べ物も確保しなきゃ。
そう思い一歩踏み出して。
「うおあっ!?」
転んだ。
すてーん、と。それはもう清々しいくらい。
転んだ。
「……スズメ、大丈夫かい?頭的な意味で」
「…大丈夫だよラザリス。怪我的な意味で」
頭は…、言わずもがな。
服についた草やら泥やらを払いながら立ち上がる。ラザリスが近くに来て支えてくれた。…後ろをちらっと見たけど、プチプリが無惨な姿になってたから慌てて前に視線を戻した。
…ラザリス。君に『隠れS』の称号を与えよう。ステータスに変化は無いけどね。
彼女の新たな一面に少し恐怖した時。
―――がさりっ、
―――ギャイン!!
「…………ん?」
一瞬で何かが始まり、そして終わった。
先程がさりと揺れた草むらを見ると、半身を突き出した状態で息絶えたウルフが居た。なぜかその身体からプスプスと煙が上がっている。
…何があったんだ、一体。
「危なかったね、お姉ちゃん」
そう言って擦り寄って来るラザリスが、「ご主人様のために頑張ったよ!褒めて褒めて!」と尻尾を振る犬に見えた。
この状況から察するに、草むらから飛び出して俺に襲いかかろうとしたウルフをラザリスが先手を打って撃破したようだ。
「…うん。ありがとね、ラザリス」
ツッコミは入れない事にしよう。下手をすれば、俺もあのプチプリやウルフのようにならないとも限らない。
満足げな義妹の頭を撫でながら、俺はある結論を出した。
「とりあえず、このウルフを食べようか」
美味しくいただきました。
(塩胡椒で味付けすれば、ウルフ焼き猟師風の出来上がり)
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