義妹は世界です。

□いち。
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―――冷たい。

最初に感じたのは、氷のような冷たさ。

―――痛い。

次に感じたのは、あまりの冷たさに悲鳴を上げる耳や手足の指の痛み。

「ん……?」

ゆっくり目を開くと、周りは乾いた土地。地面は白くひび割れ、そこに芽吹いた異質な花が今か今かと開花を待っていた。

…ここはどこだろう。

俺は確か、空から落ちる夢を見ていた気がする。それとも、これは夢の続きなのだろうか。なんとも悪趣味な夢だ。

キョロキョロと見回していると、“目の前から”声がした。

「―――目が覚めた?」

こういうのって、後ろからってのがお約束じゃないの?

先程まで何も無く誰も居なかった空間に、当たり前のようにその人物は居た。

…いや、『人物』と言うのは語弊があるかもしれない。頭や手には水晶のような結晶の、左目には赤い飾りをしたその存在は、所謂『人間』の定義に当て嵌まらない異質さを感じさせる。
この異質な地に生える異質な花のような、『ヒト』とは違う存在。

一見性別不明な人間であるその存在は、細い脚を交互に前に出し、俺に近付いてきた。

「君、空から落ちてたんだよ。まるでディセンダーのように。…でも、違うよね。ここルミナシアのディセンダーは既に存在している。

…ねぇ、君は一体何者なんだい?」

ずいっと顔を寄せてきたその存在に、俺は息を呑んだ。

綺麗だ。凄く。

名も知らない宝石のような瞳。不思議なグラデーションの髪。日焼けやニキビなんかとは一生無縁そうな色白の肌。水晶のように煌めく結晶も、その綺麗さを引き立たせる一種のアクセサリーか何かのように感じる。
こんなに綺麗な存在、本当に、初めて会った。

「…きれい…」

思わず声にした言葉に、その存在は眉をひそめた(その動作すら綺麗だった)。

「…何が綺麗なものか、こんな醜いヒトの身体…」

「…でも、綺麗。凄く」

また俺が綺麗だと言うと、一層眉をひそめる。しかし、綺麗な存在は何をしても綺麗だ。

「…君も所詮はヒトか。もう良い、そこで野垂れ死ね」

踵を返し、空気と同化し始めるその存在。ナチュラルに酷い事言われた。…いや待てそれよりも。

その、後ろ姿。

俺が気まぐれに買った、苦手なジャンルのゲームのオープニングに出て来た。気がする。

「ちょ、ちょっと待って!」

慌てて俺は叫んだ。その存在は少し驚いたようにまた顕現し、細やかな侮蔑と嫌悪を感じさせる視線を寄越してきた。

「あ、あの…えっと…ここはどこ、ですか?」

呼び止めた癖に何を言うか全く考えていなかった俺は、しどろもどろに尋ねる(しかも、なぜか敬語で)。

「………ルミナシアだよ」

ゲームの中の『世界』と、同じ名前。

「…マジか…よ………」

目の前が真っ暗になった。

彼女(彼?)の答えはあまりにも衝撃的で、まだしぶとく残ってた眠気やら疲れやらがショックと共に一気に俺の意識をぷつりと切った。

「…このヒト、どうしようか」

その綺麗な存在の、呆れたような困ったような声が響いた。気がした。


『世界』と出会いました。
(綺麗な、きれいな、キレイな、『世界』と)


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