TOX(夢ではないよ)

□嫁入りは御免
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「……、…そういえばさアグリア、ガイアスはお嫁さんもらわないの?」
「…おめぇがそれを聞くのか?」





一悶着も二悶着もあった末にカン・バルクで王お抱えの侍医(見習い)の位に着いたジュードの元にアグリアが堂々と医師達との勉強会に乱入してきたので休憩も兼ねて一服……というか医師たちがアグリアに巻き込まれたくないからとセットで部屋に置いていかれたので流れに身を任せただけにすぎないのだが。
そんなジュードはふと頭に浮かんだ疑問を「今日はいい天気だね」というほど気軽に口にすればジド目を向けられた。

「オメ―はいいのかよ。陛下がほかの女隣に置いとくの」
「別にいいんじゃない?」
「……は?」

お茶菓子をパクリと口に含んで「だから、いいんじゃない?」と再度言った。

「……おめぇ陛下とセックスするような仲じゃなかったか?」
「っもう!だからそういうのはオブラートに包んでよ!……まあ、一緒に寝る仲だよ」
「そのおまえが他の女を許すって……っテメーー!!まさか陛下程の人をもちながら他の種馬に現抜かしてんじゃねえだろうなぁ!!」
「ちょっ暴れないでよ!?違うから、そんなことありえないからっ」

白衣の胸元をつかまれた拍子に手に持っていたカップを落としそうになった。カップに残る波打つ紅茶がこぼれないように持ち直して掴まれた手をなだめればとりあえず座ってとアグリアをイスに戻す。

「まああれだよ。ガイアスは王様だからね。複数の奥さんどころか愛人だって許されるじゃない」
「そりゃあな。けどよ、普通は余所に行かれんのって腹立つもんじゃねえか?」

アグリアにしては普通の女の子の様な事を言っている…と指摘すれば要らない火が飛んでくるので黙っている。

「それに、そのぉ…おめぇが陛下の嫁になればいいじゃねえか」
「ぼくが?ヤだよ」

何の躊躇もなくその言葉を口にした。

「あ、もちろんガイアスのことは…その……愛してる、けど……ガイアスのお嫁さんになるってことは王の嫁ってことじゃない」
「そりゃあな」
「それってさ、後宮に入らないといけないってことじゃない」
「まぁな…」

基本的な後宮の仕組みはラ・シュガルもア・ジュールも変わらないがア・ジュールの方が後宮に入った女性の外界への規制が厳しい。文字道理籠の鳥状態だ。
それは王に仕える女性の貞操を硬く守るためと分かっていてもラ・シュガル育ちのジュードにはその規制が息苦しく思えてならないのだ。

「僕はねアグリア、医者になりたいんだ。僕の場合は女医かな。アグリアだってガイアスのために働いていたいでしょ」
「陛下があたしのすべてだからな」
「…まあ理由はどうであれ、ガイアスのお嫁さんになったら僕は自分の夢がかなえられなくなっちゃうし、今はまだ勉強していたいから」


だから僕がお嫁さんになるのはまだ考えてないんだよ。


「ならなんで他の女勧めるみたいなこと言ったんだよ」
「あ、そうそう話がずれちゃったね。だってこっちに来てからガイアスってば毎晩僕の所に来ては……っ!…ぁ、まあいろいろあってガイアスの体力にはついていけないから、」
「嫁もらってそっちに行けと」
「そういうこと」

「そうすれば僕はもっと勉強できるのに」と清々しいまでに笑顔で言い切ったジュードにアグリアは「陛下が自重しないと縁を切られるな…」と冷めた紅茶を飲んで思ったのだった。




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