shortDream3

□学校(王道)5題
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ふんふん、と鼻歌を歌いながら、部室へと向かっていたのだが、部室の前に立つ人物を見た瞬間、私の思考、足、鼻歌が停止した。

その後すぐに、その部室の前の彼はこちらに気が付いたのか、振り向いて「よっ。」と声を掛けてきた。

じんわりと熱くなる頬に気付かないフリをして、私は硬直していた足を無理矢理動かし、彼に近づいた。


「やぁやぁ工藤君ではないか。あれれ?まだ鍵が開いていないのかね?」


きょと、と首を傾げて、彼の前にあるドアを見る。
すると工藤君は「そうなんだよ、」と苦笑しながら頷いた。


「で、今誰か部室の鍵、探しに行ってるのね。工藤君は此処で来た部員達にその事を伝えている、と。」

「おー。そんなとこだ。なんか鍵が見つからねーみてーでよ。」


肩を竦めて工藤君が言った言葉に少し驚きながらも、そうだったんだ、と大変だねー、とどこか他人事のように呟いた。

本当に大変な事だとは思うのだが、私の心臓の方が大変だ。
さっきからばっくばっくと大音量で鳴っていて、もうどうかなりそうなのだ。

よりによって片想いしている工藤君と二人っきりなんてやめてくれよ、冗談じゃない。

何とかこの場から逃げようと、私は引き攣り笑いを浮かべながら工藤君に言った。


「じゃー‥さ。私もちょっと鍵探してこようかな。人手はたくさんあった方が良いだろうし!じゃぁ私行くね!」

「あ?!ちょっと待てよ!」

「おひゃあ?!」


まさか腕を引っ張られて引き止められるとは思っていなかった私は変な奇声を上げてしまった。


「っな、なんだい、工藤君。」

「部室の鍵なんて他の奴らに任せといてさ、なんか話してようぜ!」


少しだけ視線を彷徨わせた後に、にっと笑ってそう言った工藤君に一瞬ぽかん、としてしまった。
ちょっと待って工藤君。貴方は私を殺す気なの?貴方探偵でしょ!殺人犯になってどうするの?!

私がそんな事を考えているとも知らず、工藤君は「な?」と聞いてきた。
渋々頷けば、工藤君は嬉しそうに笑った。
工藤君のこの笑顔好きだなぁ、とぼんやりと見つめていれば、工藤君が首を傾げたので慌てて顔を逸らした。


「っく、工藤君ってさ!好きな人とかいるの?」


パニックの頭のまま口に出した言葉はとんでもない言葉だった。
口にしてからハッとなり、なんつー事聞いてんだ自分!と混乱する。

今のなしで!!と叫ぼうとした時、工藤君が口を開いた。


「‥おー‥‥。」


うわあああああ顔赤らめて真面目に返されちゃったよ!!
なんでこんな事聞いちゃったんだよ私!!何しちゃってるんだよ!!
と内心大混乱しているのだが、どこか冷静に考えている私もいるようで、また自然と口にしていた。


「それって毛利さん?」


此処までくると自分の口に呆れた。
何故この口は黙るという事が出来ないのだろうか。

工藤君はぽかん、と口を開けた後溜め息を吐いて「ちげーよ。」と言った。

やっぱりそうだよね、毛利さんだよね、ってあれ、違うんですか?

今度は私がぽかん、とする番だった。


「ありゃ、違うの?」

「全然違うっつーの。」


でも結構噂になってるのになぁ、と首を傾げれば、勝手に言ってるだけだと不機嫌そうに言われた。


「そっか。なんかごめんね、勘違いしちゃってて。」

「‥別にいいって。」


苦笑しながら許してくれた工藤君にほっとした。


「‥‥うーん。鍵、まだ見つからないのかなぁ。」

「‥‥みてーだな。」

「やっぱり私も探しに‥‥」


行こうかな、と言おうとした私の言葉を遮るように工藤君が言葉を発した。


「オメーは、好きな奴とか‥いんのか?」


踏み出そうとした足が動かなくなった。

私だけ聞いて答えないっていうのは確かに駄目だよな、うん。
私は「まーねー、」と苦笑混じりに答えた。

すると工藤君は目を見開いていた。


「え?そんな意外だった?」

「っあ、いや、そういうわけじゃ‥‥。‥そ、それって誰だよ。」

「っえ、い、いやぁ、それはいくらなんでも…。」


本人が目の前にいるのに言えるわけないじゃないか、と内心乾き笑いをしながら言えば、工藤君はそうだよな、悪ィ、と言った。

それから暫くの間私達の間には沈黙が訪れた。
何を言うべきか分からなかった私は視線をうろちょろさせるばかりだった。

すると漸く工藤君が口を開いた。


「俺の好きな奴の事なんだけどよ。」


思わず「へ?」と間抜けな声を出してしまった。
工藤君はそんな私に構わず言葉を続けた。


「ソイツ、すっげー面白い奴でさ。見てて飽きねーんだよな。それで優しくて、頑張り屋で。‥‥皆の事を第一に考える、そんな奴。」


その言葉を聞いて凄い人なんだな、と少し驚いた。
やっぱり、工藤君が好きになるんだから、凄い良い人なんだ。


「私の好きな人もね、そんな感じの人なんだ。」

「‥‥へー…。」


それからまた、少し沈黙。
そしてその沈黙を破ったのは、またもや工藤君だった。


「好きだ。」


突然のその言葉に一瞬誤解してしまいそうになる。
嗚呼、その人が、って事ね!


「本当工藤君、その人の事好きなんだね。」


そう笑えば、工藤君は「オメーだよ!」と叫んだ。
…誰だよ?

周囲を見渡すも、私と工藤君以外誰もいない。
え、私が、なんだって?


「っだから!雨音の事が好きなんだよ!!!」

「ちょ、ちょっと待って、私さっき工藤君が言ってたみたいな凄い人じゃないんだけど!」


突然の告白に頭がごっちゃごっちゃになる。
工藤君、それきっと何かの間違いなんじゃ、と考えるのと同時に、もし本当にそうだったら嬉しい、と考える。


「‥オメーは十分スゲーって。」


苦笑しながら私の頭をぽんぽん、と叩いた工藤君。
‥‥嘘でしょう。


「‥‥あの、私、実はですね。工藤君の事が、好き、でして。」


ぽそり、と呟けば、工藤君は「へっ?」とさっきの私みたいに間抜けな声を上げた。
顔を上げれば工藤君の真っ赤な顔がそこにあった。
きっと私の顔も工藤君みたいに真っ赤なんだろうな、と思うと少し可笑しかった。



部室の鍵が見つかるまでは

((この、暖かい気持ちの余韻を感じていたい。))
(なんて、部室の鍵ははじめっから俺が持ってんだけどな。)



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