shortDream3

□恋してた
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かた、と震える手を抑えながら、漸く開けた彼の靴箱。

そこへ何時間も前に書いた手紙を、彼の靴の上にそっと置いた。
それからぱたん、と閉じ、ゆっくりと後ずさった。
じんわりと熱くなっていく頬を自覚しながら、踵を返して私はその場から去った。


我乍ら、ベタなやり方だと思った。
でも、こうでもしないと、私は彼に想いを伝える事は出来ないだろう。
直接言う、だなんて、堪えられない。

だってこの恋が実る事はないのだから。


思って、少し悲しくなりそっと目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは、やっぱり彼で。

こっそり見つめてきた彼の表情は、とてもころころ変わって。
格好良くて、たまに大人で、でも見せる笑顔は無邪気で、どこか幼さが残る表情で。
それが可愛くって。
それで、とても優しくて。
私が直接その優しさに触れた事はないけれど。
でも、見てきたから分かるんだ。


「好き、だよ。」


今頃、彼が手紙を読んでいるかもしれない。でも、きっと少し戸惑っているんだろうな。

だって、名前を書かなかったから。
書いたとしても、それが私だなんて思わないだろうけれど。
だって、話した事も、顔を合わせた事もないんだから。

なんで書かなかったのか、と問われたら、それはきっと私が臆病者だから。
でも、彼の事が好きだっていう気持ちは伝えたかった。ただの自己満足に過ぎないんだ。

そんな自己満足に付き合わせて申し訳ないけれど、お願いだから、私の我が儘を、聞いて下さい。


「好き、でした。‥工藤君。」


私に、恋を教えてくれて、ありがとう。
私の、我が儘に無理矢理付き合わせてしまって、ごめんなさい。

どうか、工藤君。貴方が彼女と幸せになれますように。
心から、祈ってるよ。本当に、ありがとう。





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