shortDream3
□ぽかぽか
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寒い寒い、と手を擦り合わせ、手の平にはぁーっ、と自分の暖かい息を吐く。
少しでも寒さを紛らわせたくて、ぴょんこぴょんこ跳ねてみたり、スキップをしてみたり。
けれどもやはり寒いものは寒いわけで。
けれどそれも後少しの辛抱なのだ。
私はあたたかい場所へと向かっている最中なのだから。
カランカラン、とベルの音。
戸を押し開ければ外よりあたたかい中。
その事に安心してだらしなくへにゃり、と顔を崩す。
「いらっしゃい、楓さん。」
そしてあたたかい店長であるしろくまさんのお出迎え。
私の顔を見るなり、すぐに珈琲の支度をしてくれるところを見ると、私ももう常連なんだなぁ、と思う。
「お邪魔しますよしろくまさん。」
友達の家に遊びに来たかのような私の言葉だが、それもいつも通りの事なのだ。
いつもの席へ座るなり、準備のはやい事、もう珈琲を出してくれたしろくまさん。
言わないでもエスプレッソを出してくれるので、流石しろくまさんだ。
出されたそれを覗き見て、私は思わず「あれ、」と声を上げた。
「サービスだよ。いつも来てくれているお礼に、今日は特に寒いから、タダで良いからね。」
「ええ?!ちょ、しろくまさんそれはちょっと申し訳ないというか‥。」
そこには可愛らしい花が描かれていて、それはとても私が好きな花だった。
その事を嬉しく思ったのも束の間、しろくまさんのその言葉にぶんぶんと首を横に振る。
「良いんだよ。僕がそうしたいんだ。ダメかな?」
こてん、と可愛らしく首を傾げてみせたしろくまさんに駄目、と言えるわけもなく、私は渋々と分かりました、と引き下がる事にした。
それから少しして、ゆっくりと珈琲を飲む。
体がじーん、と痺れたような感覚に襲われる。
そしてじわじわと、あたたまってくる事が分かった。
「しろくまさん‥‥美味しいです…。」
ほふー、と幸せのため息を吐くと、しろくまさんはありがとう、と嬉しそうに微笑んだ。
「私、しろくまさんの淹れてくれる珈琲、大好きです。」
「そう言ってくれるとやり甲斐があるなぁ。」
と、そこでまたカランカラン、と音が聞こえてきて、誰が来たのか、と視線を戸の方へと向ける。
そこにはペンギンさんがいた。
「こんにちはー。‥あれ、楓さんじゃない。今日も来てるんだね。」
常連さんだねー、と笑いながら私の隣りの席に座るペンギンさん。
そしてペンギンさんは私の珈琲を見ると、あ、と声を上げた。
「それってもしかして、楓さんが好きな花の‥カンパニュラ‥だっけ?」
「ん、そうそう!サービスって言ってしろくまさんがくれたの!」
「へぇー。ねぇしろくまくん。僕にもサービスしてよ!」
けれどしろくまさんは首を横に振ってダメダメ、と言った。
ペンギンさんはえぇーっとガックリしていた。
それから暫くして、ふとまたペンギンさんが言った。
「そういえばさ。カンパニュラの花言葉、って知ってる?」
また長々と例のアレを聞かされるのか、と少し身構えたが、どうやらそうではないらしかった。
ペンギンさんは得意気に言ってみせ‥ようとしたんだけれど、それを遮るようにしろくまさんが言った。
「感謝、って意味だよ。」
にこやかに告げたしろくまさんに、ペンギンさんが「もう!しろくまくん僕の言おうとした事先に言わないでよ!」とぷんぷんと怒っていた。
自分の好きな花だったけど、花言葉は知らなかったなぁ、とふむふむと私は頷いた。
「さっきも言ったけど、いつもお店に来てくれるから、その感謝の気持ちを込めたんだよ。」
「え、こちらこそいつも美味しい珈琲を有難う御座います!」
ぺこ、とお辞儀をしてしろくまさんを見れば、にこり、と笑んでいた。
ペンギンさんは少しの間むす、としていたけれど、それからまた間を空けてから、不意にまた声を上げた。
「あのさ、もう1つあったんだけど。」
「もう1つ?」
「うん。確かね。」
ぽかぽか
"思いを告げる、だったかな。"
そのペンギンさんの言葉を聞くなり、バッとしろくまさんの方を見た。
しろくまさんは相変わらず、微笑んで私を見ていた。
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