shortDream3

□幼い頃の約束
1ページ/1ページ



"‥‥なぁ、楓。"

"ん、なぁに、創君。"

"っそ、その、大人になったら、お、俺と結婚、してくれないか、"

"っもちろん!私、創君大好きだもん!"

"や、約束だからな‥?"

"うん!約束!"


ゆびきりげんまん
うそついたらはりせんぼんのーます!
ゆびきった!


自分の小指を見て、私は苦笑を洩らすと同時に溜め息を吐いた。
こんな約束をまだ信じているだなんて、私は馬鹿だろうか。
それでも、やっぱりあの約束は私にとって今でもとても大切なもので。

詰まる所、今も彼の事が好きなのだ。

けれど彼はもう、あの約束を覚えていないだろう。
…それでも、良いのだ。
私だけの、大切な思い出で良いのだ。
その約束があったという事実さえあれば、私はこうして幸せに浸れるから。


「楓、」


ふと名前を呼ばれる。
あの頃とは違う、声変わりしたその声。
振り向けば、またあの頃に比べて逞しく、格好良くなった貴方の姿。

私は何かな、創君、と微笑み掛けた。


「いや、あの‥‥。」


暫く沈黙してから、創君はなんでもない、と首を横に振った。
何でもない事はないでしょうがよ、と私が言えば、創君は本当になんでもないんだ!とほんのりと頬を染めて言った。
すぐにその顔を私から逸らしたけれど、頬が染まっていた事はハッキリと分かった。


「そういうのが一番気になるんだけど。」

「気にしなくていい。」


ふぅ、と息を吐いてこちらに顔を向けた創君の頬はもう元通りになっていて。
本当なんなんだろうか、と少々疑問に思う。
きっとそれは創君が私に話し掛けた理由に繋がる事‥なのだろう。


「…なぁ、楓。」


今度は顔を逸らさずに、真っ直ぐに私の目を見つめて話し掛けてきた創君。
その真剣な表情に少しだけ緊張するも、いつも通りを心がけて、私はなぁに、創君。と問い掛けた。


「こんな事、覚えてないかもしれない。それにまだそんな事を引き摺っていたのか、と俺を馬鹿だと思うかもしれない。」


そこまで言うと創君はすぅ、と息を吸った。


「俺は、お前が好きなんだ。」


サァ、と吹いた風が、私の髪を靡かせる。
その言葉を聞いた私は、意外にも冷静だった。


「創君。創君は覚えてるかな。きっとさっきの言い方だと、覚えてるのかな。」


名前を呼ぶと、一瞬肩をビクッとさせた彼に構わず、私は言葉を続けた。


「私も創君が好きだよ。あの頃から、ずっと、ずっと。あの頃と気持ちは一緒なんだ。私も実はあの約束、ずっと引きずってたんだ。」


苦笑混じりにその言葉を言い終えた私を見ている創君の目が見開かれた。

次の瞬間、私は創君に抱き締められていた。




.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ