shortDream3
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もう、何度目になるか分からない。
ちみっと珈琲を口に含む。
普段はブラックなんて絶対に飲まないが、眠気覚ましにはやはり苦い珈琲の方が効くのだろうか、と思い、私は苦手なブラックを飲んでいるのだ。
何故そこまでして起きようとしているのかというと、恋人の帰りを待っているからだ。
彼に、「お帰りなさい。」と伝えるまでは、絶対に私は寝ない、と決めたのだ。
それでも、やはりうとうととしてしまうのは仕方のない事で。
ちら、と時計を見ると、もう深夜だ。
新一には、待たずに寝てろ、と言われたのだが、私が素直に従うわけがなく。
意地でも新一の帰りを待つ事にしたのだ。
きっと、今日の事件はとても大変なもので、時間の掛かるものなのだろうから、私に寝ているように言ったのだろう。
けれど、私はやっぱり新一の帰りを待ちたかった。
「まだかな。」
ぽつり、呟いて、私はベランダの方へと近づいて、外を眺めた。
今は冬だから、夜はかなり冷える。
部屋は閉め切っていて、ほぼ密室状態と言えるこの場所だが、やはり寒いものは寒い。
カーディガンの上から両腕を擦って、もう一度ベッドに腰掛け直し、珈琲を先程と同じように、ちみっとだけ飲む。
確か、あまり珈琲を飲みすぎるのはよくなかったはず、と思っての行為だ。
このちみっと行為のお蔭で、まだ珈琲は2杯目だ。
ベッドの上に置いてあった毛布を手繰り寄せて、そっと自分に掛ける。
これで少しは暖かくなった。
その暖かさの所為か、ふと意識を飛ばしそうになり、慌ててまた珈琲を口に含んだ。
「‥‥苦い‥。」
やはり、甘党の私にはキツイものがあったが、それでも新一の帰りを待つ為だ、と我慢をする。
その時、足音が近づいてくるのが分かった。
はっ、と顔を上げて、立ち上がろうとするも、あまり力が入らず、その場にぺた、と座り込んでしまった。
と、同時に、部屋の扉が開いた。
その人物は、私を視界に捉えた途端、目を見開いて、慌ててこちらに近付いてきた。
「お前‥!寝てろっつったろ?!」
「えへへ‥‥ごめんね、どうしても、新一におかえり、って言いたかったんだ。」
眠くて力なく、へにゃり、と笑えば、新一は呆れたような、けれど照れ臭そうに微笑んでくれた。
「おかえり、新一。」
「おう。ただいま、楓。」
そっと、額に唇を落としてきた新一。
それが少しくすぐったくて、私は首を竦めた。
「あと、お疲れ様。」
「ん。」
私に合わせてしゃがんでくれている新一を、そっと抱きしめて呟けば、新一も私の背中に腕を回して、ぽんぽん、と優しく叩いてくれた。
それが心地好くて、すぐに私は意識を飛ばした。
おかえり
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