shortDream3
□洪水警報
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何というか、ツイてない、というか。
ザァザァと大雨の中、意味もなく濡れてみる。
傘がないわけじゃない。普通の傘も、折り畳み傘も持っている。
でも、ただ濡れてみただけ。
ううん、現在進行形で、濡れてるだけ。
まだ一応夏なのに。先程までは暑いと感じていたのに。
今は、寒いや。自業自得なのだが。
ぼぉ、と空を見上げて、頬を打ちつけてくる雨が少し痛い。
確か、洪水警報とか出てるんだっけ?そりゃすごいや。
なんて、他人事のように思いながら、私はただただぼー、と雨にうたれた。
今日はテスト。そして大雨。
そして、私の誕生日。
なんでホント、テストとかぶっちゃうかなぁ、と苦笑する。
「‥‥寒い。」
テストは無事(といっても結果は無事ではないだろうが)、終了した。
そしてもう皆下校。
家に帰っても特に何もする事もないし、何か、特別な事でもしてみよう、と思った私は、今までやってみたかった、でもやっていなかった、雨にうたれるという行為をしていた。
でも、そろそろ、風邪ひきそうかもな。
未だにぼー、とそう考えながら、私はどうしようか、と漸く空から視線を下げた。
その時、後ろから声が聞こえてきたものだから、少し驚いてしまった。
「楓…?」
ゆっくりと振り向くと、そこには傘をさした快斗の姿。
私を視界にとらえた途端、その目はカッと見開かれ、お前なんで濡れて、は?!と慌ててこちらに駆け寄ってきた。
「ちょっと雨にうたれてみた。」
「バーロー!風邪ひくだろ?!」
明らかに手遅れではあるが、何してんだよ、と慌ててこちらに傘を傾けてきた快斗。
そんな快斗の優しさが、冷たい心にじんわりと広がっていくようだった。
「ってオメー傘持ってんじゃねーか!なんでささねーんだよ!!」
「昔っから雨にうたれてみるの、夢だったんだー。」
のほほん、と笑って答えてみせれば、快斗はアホか、と私の額を指で弾いてきた。
「とにかく、はやく家帰るぞ。本当に風邪ひいちまう。」
そう言って、私がまだ雨にうたれ続けようとしていると思っているのか、快斗が私を引きずるようにして歩き出した。
この際だから、快斗に笑ってもらおうか。
そう思って、私は問題形式から始めた。
「ね、快斗。今日は何の日でしょーか。」
すると快斗はこちらを振り向いて、きょとん、としてみせた。
きっと、テストの日、だろうな。なんてぼんやり考えながら快斗を見つめる。
「楓のたんじょーび、だろ?」
快斗は当然、と言わんばかりにそう答えてみせた。
え?と思わずぽかん、としてしまう。
「‥‥テストの日、って答えたら、ざんねーん、って笑ってやろうと思ったのに。」
本当は、嬉しかった。まさか、覚えてくれてる人がいるなんて。
だけど素直じゃない私はそんな事を言うんだ。
快斗は笑いながら、ざんねーん、と言ってきた。
「オレが忘れるわけねーだろ、オメーの誕生日。」
そんな事言われたら、期待しちゃうよ、私。
最悪だな、って思ってた誕生日が、貴方のその一言と笑顔で、こんなにも、‥最高に変わる。
私のこの気持ちも、洪水警報だよ、ばーか。
洪水警報
(好きという気持ちが、溢れてしまう。)
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