shortDream3

□魔法使いに5のお題
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ある日、本当に突然、私の元に彼は現れたんだ。

何となく、本当に何となく、ただ月が綺麗だな、と思って真っ暗な空を眺めていた時の事だった。

突然声が聞こえてきて、吃驚してそっちを見た私の目に飛び込んできたのは、真っ白な格好をした人だった。

確か、今噂の、怪盗キッドさん、だったような気がする。

じ、と見ていると、怪盗さんが声を掛けてきた。


「こんばんは、お嬢さん。今宵はとても月が綺麗ですね。」


言いながら、片膝をついて私の手を取り、甲に唇を落とした怪盗さん。
噂通りの、気障な人だ。


「そうですね。とても‥、とても、綺麗な月。そして、星空‥‥。」


怪盗さんの言葉に、同じ事を思っていた私はなんだかわくわくして。
嬉しくて、目を細めて、怪盗さんを見つめて笑った。

すると怪盗さんはシルクハットを深々と被り直しながら立ち上がって、名前を聞いて来た。


「私は楓。」


怪盗さんは何を思ったのか、突然こんな事を言い出した。


「楓嬢。私は、魔法使いです。特別に、貴方の5つの願いを叶えて差し上げましょう。」


シルクハットで顔はよく見えないけれど、ふ、と怪盗さんが柔らかく笑んだような気がした。

私はきょとん、として怪盗さんを見た後、魔法使い?と首を傾げた。


「おや‥その様子だと信じていないようですね?」


くす、と笑みを洩らした怪盗さんに、私はいきなり信じろと言われても無理だ、と言えば、怪盗さんはどうしたら信じてくれますかね、とふむ、と考える素振りを見せた。

それから私は、あ、と声を上げて、少し上の位置にある怪盗さんの顔を見上げて言った。


「それなら、私の1つ目のお願いです。空を、飛んで見せて下さい。」


すると怪盗さんは目を細めて、お安いご用です、と言った。

そして次の瞬間、目の前にいた怪盗さんはふわり、と宙に浮いてみせた。
私は目を見開いて驚いた。

けれど怪盗さんは、まだまだこれからですよ、と言って、手すりに足をかけ、蹴った。

私は驚いて手すりにつかまって、上を見上げた。そこには宙に浮いて、微笑む怪盗さんの姿。

怪盗さんはこちらに手を差し伸べてきて、言った。


「さぁ、楓嬢も。」


恐る恐る、彼に手に自分の手を重ねた。そして彼に抱き抱えられるような状態になると、その場を離れ、みるみる高く、高くへと飛んだ。

夢みたい、だ。

まさか本当に空を飛ぶなんて思っていなくて。きっと、いつものハンググライダーかなんかで飛ぶんだろう、って思っていたから。

私はただただ、唖然ときらきらと輝く星と月を見つめた。


空を飛んで見せて



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