shortDream3

□おめでとう
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なんで、今日に限って。

朝から、そんなどんよりとした気持ちでいっぱいな私は、恨めし気に窓の外を見た。

そんな様子の私に、苦笑しながら声を掛けてきた探君。


「そんなに不機嫌にならないでおくれよ。僕も残念だけど、これは仕方のない事だろう?」

「でも、」


そう呟いてから、私は再び窓の外へと視線を向ける。

何も、よりによって、今日、雨になってしまうなんて。

本当は今日は、探君の誕生日だから、2人でデートをする予定だったのに。

それに、探君が態々イギリスから帰って来てくれたのに。
中々会えないから、楽しみにしてたのにな、デート。

これ程雨を憎んだ事はない、と思いながら、窓の外のどしゃぶりの雨を睨みつけた。

すると、いつの間にか隣まで来ていた探君が、そっと私の肩に手を置いて、困ったように笑って言った。


「僕は、君のそんな表情が見たくて、帰ってきたわけじゃない。折角会えたんだ。笑ってほしいな。」


そう言われたら、笑うしかないだろう。私は照れつつも、柔らかく笑んだ。

すると探君が満足そうに笑って、私の額の髪を優しくかき分けると、そこに軽く唇を落とした。
ゆっくりと探君の顔が離れていく途中、それに、と探君が呟いた。


「たとえデートが出来なかったとしても、僕の隣に楓がいてくれるだけで、僕は嬉しいさ。」


その探君の言葉に、ほんのりと頬を染めながらも、私はくすり、と笑みを洩らした。


「相変わらず、気障なんだから。」


お互いに、私の照れ隠しだと分かっているからか、見つめ合って軽く笑い合う。
それから私は呟いた。


「私も、探君が隣にいるだけで、幸せだよ。」


どちらからともなく、目を閉じて、口付けを交わした。

顔が離れてから、私は探君の目を見て、改めて言った。



おめでとう
(そうすれば、貴方は照れたように笑い乍、ありがとう、と言った。)



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