shortDream3

□勝てない
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「雨音先輩!今日、一緒に帰りませんか。」


勇気を出して、オレは漸くその言葉を発した。
意外とあっさりとOKされて、オレは自分の気持ちが昂るのが分かった。


「…工藤君。あのさ。」


そして今に至る。
オレの隣にいるこの先輩は、雨音楓先輩で、今でもまだ信じられないがオレの彼女。
憧れていた先輩と付き合えるなんて幸せだな、オレ、なんてにやけそうになったが慌てて堪える。


「ん、なんですか、先輩。」

「そろそろ、苗字じゃなくて名前で呼んでほしいな。あと、敬語も外してよ。」

「えっ。あ、」


苦笑しながらそう言った先輩に、オレはぎこちなく頷いた。


「…楓、せんぱ、」


い、と言い終える前に、ちょん、とオレの言葉を遮るように、オレの唇に先輩の人差し指が触れた。
その事に心臓が破裂しそうになった。


「二人っきりの時くらいは、先輩も、敬語もなしね?」


くすり、と笑った先輩…楓、は、とても大人っぽくて。
オレの頬が紅潮していくのが嫌でも分かる。


「‥嗚呼、分かったよ。」


楓はいつもそうだ。
いつも、余裕そうな大人の笑みばっか浮かべてる。
其れが気に入らなくて、少しでも楓の余裕のない顔が見たくて、ほんの少しの抵抗のつもりでオレは言った。


「‥‥楓。」


そう、優しく微笑む。
けれど、楓は変わらない笑顔で、


「新一君。」


なんて言うんだ。
本当、卑怯だと思う。



勝てない
((敵わない、本当に。))
((本当は少しだけときめいた、なんて。内緒だけどね。))




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