shortDream3

□恋の病
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おかしい。

さっきからずっと、心臓がバクバクいってる。
苦しい。

ぎゅっ、と制服の上から心臓部辺りを握り締める。
くしゃ、となった制服も気にならないくらい、苦しい。


「はよ!楓っ!」


ぽん、と聞き覚えのある声と同時に肩を叩かれ、思いっきりビクッと飛び跳ねた。
私はバッと振り返っておはよう!と叫ぶと教室までダッシュで向かった。

なんなんだ?!バ快斗を見た途端心臓が止まるかと思った!

でもなんか今日は快斗と一緒にいたらよくなさそうだなぁ。


「…苦しい‥。」

「なーにがっ?」


ひょっこり隣から顔を出したのは、先程あの場に置いてきたはずの快斗で。
私は声にならない叫びをあげて慌てて後ずさった。


「なっんでもない!!」

「なんでもねーやつが人の顔見た瞬間叫んだりするかよ。」


じっとーっとした目つきでこちらを見てくる快斗。
そんな状態でも私の心臓はばっくばっくいってて。

もう嫌だこんなの。なんでこんなに苦しいんだか。


「っ私だってわかんないんだもん!!!」


吐き捨てるように叫んで、また駆け出して。
走って、走って、屋上まで来て。
いつもは開いてないはずの屋上が何故か開いていたからバンッと開けて屋上へ飛び出す。
座り込んで、はぁ、と溜め息を一つ吐いた。

この心臓の高鳴りは、さっきまでのものと同じものなのか、それとも走ったからなのか、もう全然分からなかった。

とにかくもう嫌だった。なんかずっと心臓苦しいし。
快斗見るだけで苦しいし。わけが分からない。


「なぁ。」


そしてまた聞こえてきた快斗の声。
心臓が鷲掴みにされたかのように、苦しくなった。


「オメー今日どうしたんだよ。なんかおかしいぜ?」

「‥それは自覚してますよ。でもおかしいのは私の心臓なんだから。」


俯いてそう呟けば、快斗が私の隣に腰を下ろした。
その事にもまた心臓が跳ねた。


「心臓?なんだよそれ。ビョーキか?」

「‥‥そうかもしれない。」


怖くなって、膝に顔を埋めた。
するとそっと私の背中を撫でながら、快斗が言った。


「オレに話してみろよ。そしたら、もしかしたらマシになるかもしれねーだろ?」


その優しい快斗の声に、心臓が音を立てる。
病原体は快斗なんじゃないか、と疑いたくなる。


「‥‥ありがと。あのね、‥」


顔を上げて快斗の方を見ながら、続きを口にした。


「朝から、なんか苦しくってね。それで、快斗に声掛けられて、更にぎゅっ、と苦しくなって。快斗の顔を見る度に苦しくて。今も、ずっと苦しいの。」


半ば訴えるようにして私はそう伝えた。
すると、段々と快斗の顔が赤く染まっていった。


「‥‥快斗?」


不思議に思って快斗の顔を覗き込めば、快斗は手で顔を覆って「あ〜…」と呻いた。


「…オメーほんっと鈍感だな。」

「どういう事?こっちは真剣に悩んでるってのに、」


すると不意に真剣な表情になった快斗に思わず口を噤んだ。


「オレさ。オメーの事好きなんだよ。」


私もう死ぬんじゃないか、ってくらいに心臓が高鳴った。
苦しさのあまりぎゅっ、と制服を掴んだ。


「‥どう?心臓。」

「‥‥死ぬ、かと、思った‥‥。」


ほろり、と涙が零れ落ちた。
快斗の手がこっちに伸びてきて、私の頬に触れたと思ったら親指で涙を拭ってくれた。


「オメーのその心臓の病名、教えてやろうか?」

「へ、あの、分かる、の?」


快斗ってそんな事も分かるのか、とぽかんとしていると、快斗がふ、と笑った。

すると手招きされたので、近づけば、耳元で快斗が囁いた。


それは、


恋の病
(ですよ、お嬢さん。)
(え?!あ、‥え?!?!)




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