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□コジツケの記念日
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午後7時37分頃の時間帯の事だった。
突然部屋の扉が開いた。
驚いてそちらへ目をやると、そこには息を切らした楓の姿があった。


「どうしたんだい、急に。」

「っ今、何時!」

「7時37分54.25秒だけど…そんなに急いだ様子で、本当どうしたんだい?」


ソファから立ち上がり彼女に近づけば、楓は僕の問い掛けには答えず、「良かったぁー!間に合ったーっ!」と嬉しそうに顔を綻ばせた。

その表情に胸が高鳴っている事に気付かないフリをして、僕はそのままへたり、と座り込んでしまった彼女に手を差し伸べた。
すると彼女はありがと、と短く礼を述べて僕の手を取り立ち上がった。


「‥‥で。なんなんだい、急に。」

「っちょっと待って!えっと、探君、懐中時計貸して!」


じっとこちらを見つめてそんな事を言ってきた彼女に、ぽかん、と呆気にとられつつも嗚呼、どうぞ、と渡せば彼女はそれを受け取るなりじっとそれを見つめて黙り込んでしまった。

僕が疑問に思いながらもソファに座るように促せば、時計を見たままソファに腰を下ろした楓。


「‥‥。」


真剣な表情で懐中時計を見つめる彼女。
僕は訳が分からず、きょとん、とただその彼女の様子を見つめる事しか出来ずにいた。

そしてどれくらいそうしていただろう。
突然彼女が、10、9、8…とカウントダウンを始めた。

0になった途端何が起きるというのだろうか、と僕は少し胸を高鳴らせながら、心の中で彼女と共にカウントダウンをした。


5、4、


「3、2、1…」


ゼロ。


刹那、彼女は僕の顔を見るなり飛びついてきた。
あまりにも突然の事で、そのままソファの上に倒れ込んでしまう。


「おめでとう!!探君!」

「え?」


今日は何かあっただろうか、とちらとカレンダーを見るものの、そこには何も書かれておらず、僕の誕生日なわけでもなかった。

それに今、時間帯は8時。
この微妙な時間帯にこの言葉。
どういう事なのだろうか、と疑問に思いながら彼女を見つめると、楓はあのね、とにっこりと笑い乍説明してくれた。


「今日は8月9日でしょう?」

「ええ。」

「そして時間帯は8時00分00秒。」

「そうだね。」

「それで、8月(は)9日(く)8時00分00秒(ば)!白馬、ってわけ!だからおめでとう!!」


彼女の何とも言えないその理由に、僕は苦笑を洩らした。
けれど、やはり愛しい人に言われてしまえば嬉しいものは嬉しいわけで。


「ありがとう、楓。」


優しく彼女の額に唇を落とせば、彼女は目を細めて、嬉しそうに笑った。



コジツケの記念日
(彼女がそういうのなら、今日は記念日なのだろう。)



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