shortDream3
□突き進め
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「かいとーーっ!」
「そんな怒んなって!白は清潔で良いぜ?うんうん、やっぱり白は良いねー!白は!」
今日も2-B名物の黒羽快斗と中森青子の痴話喧嘩がはじまった。
もう誰もがその事に慣れてしまっており、またか、と呆れる者もいれば、華麗にスルーする者もいた。
けれど、私だけはきっと他の人達とは違うんだろうな、と一人溜め息を吐いた。
なるべくあの二人を視界に入れないようにするべく、窓の方へと目を向けようとした。
その時、クラスのマドンナの小泉紅子が私の席の前まで来たと思えば、話し掛けてきた。
「‥貴方、苦しくないの?」
突然のその問い掛けだったが、私は特に驚いた風もなく、何が?と逆に問い返した。
すれば、紅子は「あの二人を見て、何とも思わなくて?」と顎で二人を示しながら言った。
「元気だよね。」
「貴方わざと言っているの?」
目を細めて苛立ちを隠せないといった様子で紅子が呟いたが、私は首を傾げてみせた。
「‥‥良い?私は別に貴方の為を思って言うわけじゃないわ。ただ、貴方のたまに見せる苦しそうな表情が鬱陶しいから言うだけよ。」
前置きのようにそう言った紅子の言葉に、私は一瞬だけ肩を震わせた。
それに気付いたのか気付いていないのかわからないが、紅子は一瞬だけ表情を和らげた。
「‥‥幼馴染の存在なんて気にしてないで、さっさと思いを告げたらどうかしら?どうせ貴方の事だから、自分の気持ちを封印するつもりでしょうけど。
そんな事、したとしても残るのは後悔の気持ちだけ。それなら、伝えて砕けた方がよくってよ。」
紅子のその言葉がじんわりと胸に染み渡っていくようだった。
私は一瞬だけ目を閉じ、そしてすぐに開いて紅子をじっと見据えた。
「紅子は凄いね。私、頑張って隠してたつもりなのにな。」
「馬鹿ね。この私の目を誤魔化せるとでも?」
ふふん、と自信溢れるその笑みを見ていたら、心が暖かくなっていくのを感じた。
「ありがとう。私やっぱり紅子の事好きだな。」
そう呟けば、途端に紅子は顔を赤くして。
「な、っ貴方、伝える相手が間違ってるわ!!はやく伝えてきなさい!!!」
「嘘じゃないんだけどなぁ。‥‥うん、‥私、黒羽の事が好きだよ。」
そう柔らかく微笑めば、紅子は溜め息を吐きながらも優しく笑い返してくれて。
いってきます、と言えば、紅子ははやく行きなさい、と手で追い払うようにしてきた。
私はどこか軽い足取りで、痴話喧嘩をしている二人の元へと向かった。
突き進め
(‥貴方の場合は砕けないわよ。この私が保障してあげるわ。)
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