shortDream3

□学校(王道)5題
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「おっ、ラッキーっ!」


昼食後の授業程、眠いものはないだろう。
そんな状態で授業を受けるのも先生に失礼ってもんだろう。

なんて適当に理由をつけて、俺は授業をサボりに保健室へと足を運んだ。
なんとタイミングの良い事に、ちょうど今保健の先生は保健室にいないようだった。


「さってと、寝るか!」


軽い足取りのまま一つのあいたベッドへと近寄ろうとしたその時、ふとカーテンが閉められている一つのベッドが目に入った。


(誰か寝てんのか…?)


少し気になった俺はそっと覗いてみる事にした。

そっとカーテンを掴んで、少しだけ開ける。
その隙間から中を覗いて、すぐに閉じた。

みるみる自分の頬が熱くなっていくのが分かる。


別にただ、普通に女子が寝てただけじゃねーか。何をそんなに吃驚してんだよ。


心の中ではそう思うものの、何故か鼓動はどんどん早まって。
どうしちまったんだ、俺は、と思いつつ後ろにある閉められたカーテンをちら、と見る。

確か、彼女は同じクラスの奴だ。あんまり話した事はねーけど。


「‥‥。」


(あんな、大人しい綺麗な表情もするんだな。)


「って何考えてんだよ…!!!」


自分の思考に戸惑い、己の髪をくしゃくしゃと掻き乱す。
俺は一体どうしたってんだ!

そこでふと後ろから聞こえてきた声に、俺はビクッと肩を震わせた。


「ねぇ。」

「わあ?!」


俺のその反応が可笑しかったのか、くすくすと笑う声が聞こえてくる。
ギギギギッという音が聞こえてきそうな程ゆっくりと、ぎこちなく、俺は後ろを振り返った。
先程までは確かに閉められていた筈のカーテンが開いており、そしてその向こう側で寝ていた筈の女子がベッドの上に腰かけてこちらを見ていた。


「なっ、雨音?!」

「そーですけど?」


さっきの表情とは全く違ったその意地悪な笑み。
それにも何故か胸が高鳴って。
…本当、意味分かんねー。


「君は…同じクラスの黒羽君、だよね。マジックが得意の。」


ふわりと微笑んでそう言ってみせた雨音に目を丸くする。

へー、俺の事一応知ってんのな。

それが意外で暫く硬直していると、雨音は俺が考えている事が分かったのか、「失礼だな。」と肩を竦めてみせた。


「ところで。黒羽君、君は何故此処にいるのかな?」


ベッドから降りた雨音は座り込んでいた俺の目線に合わせるように屈んで俺を見た。
俺は視線を逸らしながら「オメーこそなんで此処にいんだよ?」と問いかけた。


「質問を質問で返さないでくれないかなぁ。まぁ良いんだけどね。私は体調不良でさっきまで寝てたってわけですよ。」


とても体調が悪いように見えないその表情に、俺は「ホントかよ?」とジト目を向けた。


「というか黒羽君は体調不良でも、どこか怪我をしたわけでもないでしょう?‥サボりにきたんだよね。」


ズバリと言い当てられ、思わず言葉に詰まる。
特に嘘を吐く必要もないか、と溜め息を吐いて悪いかよ、と返すと苦笑された。


「黒羽君らしいね。あ、そうだ。暫く先生帰って来ないみたいだから、ゆっくりサボる事は出来ると思うよ。」


立ち上がると再びベッドに腰掛けた雨音に続いて俺も立ち上がって雨音の隣に腰かけた。


「…つーかオメーさ、体調不良って大丈夫なのか?」


ぼんやりと窓の向こうを見つめている雨音に、先程気になった事を尋ねれば、雨音は視線を此方に向けた。


「うん。まぁね。寝たら大分良くなった。」

「…あ。そういや雨音って、結構学校早退したりしてたよな。それって今回のも関係あんのか?」


雨音は今日のように、突然早退をしたりする日が多かった。
コイツを俺がわりと覚えてた理由はそれが理由だったりする。


「…うん。まぁね。」


先程と同じ言葉を発した雨音の表情は少し沈んでおり、俺は聞いたら拙かったか、と内心慌てた。
しかし雨音はすぐに明るい表情に戻ると、早退ばっかでやんなっちゃうよーもう!と笑った。


「‥‥なぁ。言いたくねーなら別に良いんだけどさ。なんかの、病気か?」


俺にしては珍しく、控え目にそう尋ねた。
すると、雨音は一瞬だけ顔を強張らせた。


「‥‥そうなんだよねー。私、バカだからさ。自分の病気の名前すら、覚えれないんだよね。でも、なんか複雑なやつだった。」


笑いながら言うものの、どこか寂しげなその表情に、俺は胸が締め付けられているような感覚に陥った。


「でも心配ご無用ですよ!普段は全然、この通り元気なんだから!ほら、黒羽君もそんな顔しな‥い…で、」


相手の言葉を遮るように雨音の腕を引っ張れば、すんなりと自分の胸に収まったコイツ。

小さい。

ふとそんな事を思った。


「あのー、黒羽君?」

「無理すんなよ。無理して、笑うんじゃねーよ。」


図星だったのか、ビクッと肩が震えたのが分かった。


「嫌だなぁ。全然無理なんかしてないって。」

「じゃぁなんで震えてんだよ。今ぐらいは無理すんなって。‥ホントはそんな難しい病気抱えてんのが怖いんだろ、?」


ぽそり、と相手の耳元で呟けば、雨音はぎゅ、と俺の服を掴んだ。


「‥‥凄いなぁ、黒羽君。バレちゃう、なんてなぁ…。」


俺から少しだけ離れた雨音の顔はくしゃり、と歪められていて、目には涙が浮かんでいた。


「今ならタダで、黒羽快斗君が胸を貸してやるぜ?」


に、と笑ってそう言えば、雨音も微笑を浮かべて言った。


「じゃぁ、お借り、しようかな。」




授業中こそ保健室

("今"だけ、なんてわけねーだろ。これからもずっと、貸してやるよ。)




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