shortDream3

□プレゼントは約束事
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おかしい。
登校中、話し掛けるもどこか上の空だったから、どうかしたのかと尋ねてみたのだが、その時は眠いだけだからと返され、首を傾げながらも引き下がった。

しかし、これはおかしすぎる。
いつも授業を真面目に受け、すすんで挙手までする楓が、授業中までも上の空ときた。
様子を見ていると眠いというわけではなさそうだし、しかもたまにこちらに視線を向けて溜め息を吐くではないか。


…俺、なんかしたか…?


いくら思い返してみても全くピンとこない。
仕方がないから、授業が終わったら楓本人に聞いて謝ろう、と決意したのだが。


俺なんか避けられてない…?


話し掛けようとする度に、必ず楓は逃げるのだ。
逃げる、というのは、俺が話し掛けると青子の方へと駆け寄って行ったり、教室を駆け足で出て行ってしまったり、という事だ。

これは完全に俺が何かしてしまったに違いないだろう。
けれどずっと頭を抱えて悩んだものの、結局何も思い浮かばないまま放課後となってしまった。

嗚呼くそ、こんなんじゃ楓の彼氏失格だぜ、と自身の髪をくしゃくしゃと掻き乱す。

こんな事してても仕方がない。
帰りくらいはきちんと話そうと俺は席を立ちあがり、楓の姿を探した。

見つけた、とそちらへ一歩踏み出した時に、楓は誰かと話している事に気が付いた。
また青子辺りか?と思い、相手を見ようと少し体を移動させた。
そして目に入ったのは予想外の人物だった。


「は、」


思わず声が洩れた。
楓と話しているのは、イギリスの気障探偵、白馬探だった。

瞬間、俺の心がざわつくのを感じた。

いや、楓に限ってそんな、ないだろ。
まさかアイツに乗り換えるとかそういった事を楓が考えるとは思えない。
思えなかったが、やはり嫉妬というものは抑えられないわけで。


「‥‥なんか捨てられた気分。」


違うのだが、どうもそう思えて仕方がなかった。
流石に傷ついちゃうよ?俺。と内心涙しながら、我慢する俺エライ!と自画自賛してみる。
けれどそれも次の白馬の行動によって無意味な事となってしまった。

俺の目に飛び込んできた光景。
それは楓の手を取り、その甲に唇を落とした白馬の姿だった。

怪盗キッドの俺だってするその行為。
見慣れた筈のその行為。

それが何故かとてつもなく気に入らなかった。

何より、白馬にそれをされた楓の頬が紅潮していた事が、気に入らなかった。

ポーカーフェイスも忘れ、俺は不機嫌さを全面に押し出し、乱暴に自分の鞄を引っ掴んで教室から出た。

当然、反対側の教室の出入り口付近で会話をしていた楓達の後ろを通る事になってしまうのだが、俺はそこを無言で通り過ぎた。

のだが。

後ろから楓の引き止める声が聞こえてきた。
一瞬だけ足を止めてしまった自分が憎らしかった。
すぐに俺は歩み始めた。心なしか、先ほどより少し早足で。

天下の怪盗キッド様が聞いて呆れる、とは自分でも思ったが、この気持ちを抑える術を、俺はもう持たなかった。
好きな奴の事になると、ポーカーフェイスの仕方すら分からなくなってしまう。これは考え物だろう。


「快斗!」


先程まで白馬と話していた筈の彼女。
先程自分を呼び止めていた彼女。
その彼女が、何故か俺の腕を引いた。

走ってきたのか、息の荒い楓。
呼んだのに足を止めなかった俺を慌てて追いかけてきたのだろう。
何だか少し申し訳なく感じたが、どうも謝る気にはなれなかった。
それどころか、口を開く気にすらなれない。
餓鬼か、と内心自分に突っ込みを入れた。


「さっき呼んだんだよ?聞こえなかった?」


困ったように笑った楓。
やはり俺は返事を返さなかった。否、返せなかった。
そんな俺を見てどう考えたのか、楓がどうしたの、大丈夫?と顔を覗き込んできた。
どうやら彼女は、こんなしょうもない事で嫉妬をする彼氏の事を心配してくれているらしい。
素直に嬉しいと思った。


「‥‥あのさ。」


しかし口から出たのは自分でも驚く程の不機嫌な声だった。
楓も一瞬きょとん、として俺を見つめた。


「俺の事、嫌い?」


今、一番不安に思っていた事を口にした。
すると同時に、ずしり、と心に重く圧し掛かるその言葉。

楓は目を見開くと、首が取れてしまうのではというくらい勢いよく首を横に振った。


「そんなわけないじゃない!快斗の事、好き、だよ?」


はじめは勢いよく、そして段々と小さくなっていく声。
照れたように頬を染め、目を泳がせてそう呟いた彼女は、本当に可愛いと思った。


「じゃー、なんで楓ちゃんは俺の方を見て溜め息ばっかついてたの?それに、なんで俺の事避けてたの?」


今度はそこまで不機嫌な声にはならなかったが、どこか拗ねたようになってしまった。
本当俺って餓鬼だなぁ、と内心苦笑を洩らした。


「っあ、そ、それは、その、ごめん。快斗が悪いわけじゃないんだよ?!えっとね、ただ、‥‥。」


言い難い事なのか、言葉を濁す楓。
俺はじ、と相手の目を見つめてその先を促した。
楓は観念したのか、口を開いた。


「あのね、‥快斗への誕生日プレゼントが、まだ決まってないの。今日だっていうのに‥‥!!!」


瞬間、じわ、と目に涙を溜めた楓。


「わ、わ、な、泣くなっての!‥っあー、そういやぁ今日だっけか…。」


自分の誕生日だというのに、すっかり忘れていた。
そういえば今日はそんな日だったか。

取り敢えず、今にも零れ落ちそうな楓の涙を自分の服の裾で拭ってやった。


「ごめんね、快斗、何も用意出来てなくて‥。もし何か欲しいものあったら言って!何でも良いからね!」


ぎゅっと両手を握りしめながら強い眼差しでそう言ってのけた楓。

楓ちゃーん、"何でも"、なんてそう易々と口にしちゃぁ駄目よー?
なんて思いながら、取り敢えず危ない思考から目を逸らす。
何かないか、とうーんと考える。

そして思いついたそれに、思わず口角が上がった。


「楓。」

「へ?」


突然真剣な顔つきになった俺に戸惑ったような顔を向けた楓。
その顔までもが愛おしく感じるのだから、もう俺は末期なのかもしれない。

楓の前に跪き、その手を取り、楓の目をしっかり見つめる。


「か、快斗?」

「楓、誕生日プレゼントはいらねーよ。その代わり、約束してくれねーか?」

「え?」

「将来、俺と結婚をして下さい。」


そう呟き、相手の手の甲にそっと唇を落とした。
楓の顔が一瞬で赤く染まったのが分かる。
それがなんだか嬉しくて、ついつい顔がニヤけそうになるが、何とか堪える。


目を見開いて、口をパクパクさせている楓。
俺は視線で返事を促した。


「っ、喜んで、」


一瞬、楓の口角が上がったような気がした。
そして次の瞬間、楓がしゃがんだと思えば唇に楓のそれがそっと触れた。

すぐに離れていったそれを名残惜しく思う自分がいたのは仕方のない事だろう。


「何。今の可愛い。楓ちゃんもう一回。」

「っな、ばっ、バ快斗!やらないから!」


どれだけ真っ赤にさせれば気が済むんだ、というくらい真っ赤な顔をぷいっと背けた楓がやっぱり可愛くて、くすり、と笑みを洩らした。
かくいう俺の顔も楓程ではないにしろ熱くて。


「んじゃ、俺から。」


相手の顔を無理矢理こちらに向けて口付ける。
そして離してから、誓いのキス!と笑えば、楓は恥ずかしそうに顔を逸らした。


「あー。なんか嫉妬してた俺が馬鹿みたい。」

「え?嫉妬?」

「んーん。なんでも。さてと。帰りましょうか、お姫様。さ、お手をどうぞ。」


に、と笑って相手に手を差し出せば、楓も苦笑しながらも乗ってくれた。


「はい、王子様。」


そ、と重ねられた手を引き、ゆっくりと帰路についた。


「お誕生日おめでとう、快斗。」




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