shortDream3
□すみません、誰かこの子どうにかして下さい
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‥‥事件は、その一本の電話から始まった。
ぷるるるる、と電話の鳴る音が部屋に響き渡る。
私ははいはーい、と受話器を手に取った。
「はい、もしもし。雨音です。」
"よー楓!俺だよ!"
突然のその言葉にどちら様ですかという憎まれ口を叩きそうになったが慌てて飲み込む。
私は呆れながらも快斗でしょ、と言った。
すると俺以外に誰がいんだよ、と言われた。
「まぁそうかもしれないけど。で、何の用?」
"おーおー、冷たい事で。今度の日曜、オメー暇か?"
「今度の日曜?嗚呼うん、特に何もなかったと思‥う‥けど‥‥、」
カレンダーに視線を向けながらそう答えた瞬間、私に鋭い視線が突き刺さった。
それと同時に悪寒が走る。
え、何。なんなの。
その視線が来ている方向を見ると、そこにはちょうど遊びに来ていた新一‥コナンがソファに座ったままこちらを見ていた。
その顔はとてつもなく怖かった。なんなの一体。
"おい、楓?どうかしたのか?"
その快斗の声に我に返り、なんでもない、と答えてから、日曜日は暇だよと答えた。
"お、それならよー、俺とデートしねぇ?"
「デート?嗚呼、うん。別に良いけど。」
"おっし!決まりな!"
デート、というその言葉を発した途端、更に新一の顔が怖くなった気がしたのは気のせいだと信じたい。
それとは対照的な快斗の嬉しそうな声が、今は少し憎たらしく感じた。
それからどこに行くか、とか色々決めてから、私はふと疑問に思った事を口にしてみた。
「でも急にどうしたの、快斗。」
"別にデート誘うのに理由なんか必要ねーだろ?"
「いやまぁ、うん、そうだけど。」
本当に突然だねぇ、と呟けば、快斗はお前の暇な日を1日減らしてやったんだから感謝しろよとかなんとか調子に乗り始めたから電話を切ってやった。
その瞬間、明らかに不機嫌そうな「おい。」という声が聞こえてきた。
その声の主が座っているソファの方へと視線を向けると、案の定不機嫌丸出しな表情の新一がいた。
「さっきのカイトって奴、誰だよ。」
此処で流石にあの世間を騒がせている天下の怪盗キッドだよと言える訳もないので、適当に友達だよ友達、と返した。
「‥男だろ、ソイツ。」
「うん。快斗なんて名前の女の子、あんまり‥っていうかいないんじゃないかなぁ。」
いたら申し訳ないなと思いながらぽつり、と呟くと、新一は更に表情を厳しいものへと変えた。
え、なんなんだコイツ。
「なぁ。いつソイツと出掛けんだ?」
難しい顔をして暫く考え込んでいたと思ったら、ふと顔を上げてそんな事を尋ねてきた。
私は不思議に思いながらも、「今度の日曜だよ。」と答えた。
「俺もついてく。」
「‥はい?!」
真顔で言い切ったソイツに私は一瞬目が点になり、叫んだ声は少し裏返った。
「だから、俺もついてくって‥」
「いや、そうじゃなくて!なんで?!」
キッドの中の人をコナンである貴方にお見せする事は出来ませんよお馬鹿さんが!
と内心叫ぶが、そんな私の心境を知ったこっちゃないコイツは平然と言ってのけた。
「俺もその日、丁度蘭もおっちゃんもいねーから暇だし。」
「っい、いや!でもさ、ほら、君、快斗の事知らないでしょう?」
「別に良いだろ?」
「いやいや!もしかしたら新一、退屈になるかもよ?」
「俺が好きでついてくんだから構わねーよ。」
私がめげずに何とか新一を引き留めようとしたけれど、結局どれも失敗に終わってしまい、
遂には新一にジトリ、とした目で「そこまで俺を行かせたくねー理由はなんだよ?」と問われた。
私は「い、いやぁ!別に!快斗が困るかなぁって思って!」と適当に誤魔化した。
「いい加減オメーも諦めろよな。俺は引くつもりはねーから。」
ただの暇潰しの為に此処まで強情な新一は珍しいと思う。
本当なんなんだコイツは、と溜め息を吐いた。
嗚呼もう知らね、と引き止める事を放棄する事にした私は、新一に「分かったよ。ついて来たいなら来れば良いじゃない。」と自棄になって言った。
すると新一は、口角をクイッと上げてから、あのコナン君の時だけ見せる営業用の満面スマイルを見せて、「楓姉ちゃんありがとう!」と言った。
それを見た私がもう全てどうでもよくなったのは言わなくても分かるだろう。
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