shortDream3

□バーロー。それから、
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いつからかな。
アイツを見る度にこんな胸が苦しくなるようになったのは。

アイツが私の名前を呼ぶ度、私に話し掛ける度、私に笑いかけてくる度に、
私の胸はきゅんきゅんして、音高く鳴って。
アイツに聞こえちゃうんじゃないかってぐらい五月蠅くなって。

まさか、幼馴染のアイツを好きになるなんて、思ってもみなかった。

でも、駄目なんだ。
アイツには、好きな人がいる。
その好きな人も、アイツの事が好き。
所謂、両片想いなんだから。

その子もまた、幼馴染で。

私が、諦めるしかなかった。
あの子に私が勝てるわけがなかった。
勝とうとも、思わなかった。

でもやっぱり、そう簡単に諦められるものなんて恋とは呼ばないわけで。


やっぱり、私のこの気持ちは…


「恋、なんだ。」


ぼんやりと、教室の窓の外の景色を眺めながら、誰に言うでもなく私は呟いた。
誰にも聞かれていないと思っていたその言葉は、最も聞かれたくない人物に聞かれてしまった。


「恋だぁ?」


その声に胸がきゅっと締め付けられた。
私は冷静を装って、いつも通りの表情でそうだよ、恋だよ、と言った。
まぁ冷静に装えたのは表情までで。
この言葉を言ってしまってから慌てて私は口を噤んだ。
言わなきゃ良かった。こんな事言ったら話題はそれになってしまうに決まっているというのに。

案の定、目の前にいるコイツはそれに食いついてきた。


「どういう事だよ。‥もしかして、オメー好きな奴でも出来たのか、?」


目を丸くしてそう尋ねてきたので、私はどうしたものか、と視線を一瞬ソイツに向けてから、すぐについ、と窓の外へと向け直した。


「おい、楓?」

「‥‥それを知ってどうするの、新一。」


ソイツ‥新一は、一瞬目を見開いて硬直した。
しかしすぐにハッと我に返ると慌てていや、別に、と言い訳の言葉を探し始めた。

少し意地悪をしてしまっただろうか、と苦笑してから、私は言った。


「ごめんごめん。‥そうだよ。その通り。」


表情が、少し引き攣ってしまったかもしれない。
新一は私の言葉にぽかん、と口を開けて暫くこちらを見つめてきた。
私もちょうど新一の方へ顔を向けたので、視線が合う。


「‥その、そ、そいつ、誰、なんだよ、」


少し聞き辛そうにそう言った新一に、私は頬杖をついた。
どうせ実らない恋だ。この際、遠回しに言ってみるか?


「‥‥この恋は叶わない。だって、その人には好きな人がいるから。そして、その人が好きな人も、その人の事が好き。」


所謂、両片想い、ってやつね、と薄く笑えば、新一は何か言いたげにこちらを見てきた。


「別に良いんだけどね。前から分かっていた事だから。‥諦めるんだ。」


そう私が呟いた瞬間、新一は何とも言えない表情でこちらを見てきた。
私は新一にありがとう、とお礼を言った。
すると新一はきょとん、と首を傾げた。


「私のこんな話、聞いてくれて。半ば無理矢理だったかもしれないけど。」

「っは、いや、俺が先に色々言ったんだし、‥なんか悪ぃ、」


すまなさそうに謝ってきた新一に、そんな顔しないでよ、と笑えば、新一は不意に真面目な顔つきで見つめてきた。

滅多に見せないその真剣な表情に、胸がまた高鳴った。


「なぁ。‥無理にとは言わねーけど、よ。‥‥俺に、その、恋、してみねー?」


一瞬言っている意味が分からなくて、目を見開いて前の席に座る新一を見つめる。
新一は視線を逸らす事はせず、私をじっと見つめ返してきた。
その頬は少し紅潮しているように見え、新一が冗談を言っているわけではない事を悟る。


「‥‥それ、って、」


思いきり動揺している事がバレてしまうような私の声。
その声に、新一は自分が言った事に段々と恥ずかしくなってきたのか、どんどん頬を紅潮させていった。


「お、俺は、オメーの事が好きなんだよ、バーロー‥‥。」


暫く視線を泳がせた後、私に視線を合わせた新一。
私はわけが分からなかった。


「…新一が、私を‥‥?」

「っ嗚呼!そうだよ!‥何度も言わせんじゃねーよ、」


口元を手の甲で抑えて恥ずかしそうに視線を逸らした新一に、どんどんと鼓動が速くなるのを感じた。


「‥あのさ、新一。」

「…あんだよ。」


赤い顔を逸らしながら返事をした新一に、私はどきどきしながら自分の今考えている事を口にした。


「私の好きな人の話についてなんだけどね。」

「は?」


今その話をするのか、と言わんばかりに目を細めてこちらを見てきた新一に、私は苦笑しながらも言葉を続けた。


「私の好きな人は、私の幼馴染でね、ホームズが大好きで、ホームズバカってぐらい好きで。それで、名探偵でね。サッカーがすっごく上手なんだ。」


そうツラツラと好きな人について述べていけば、段々と分かってきたのか、新一は再度顔を赤くした。


「それで、今、私の目の前にいるの。」


新一の頬を両手で挟み、お互いの額を合わせて見つめ合う。


「なっ」

「好き。大好き。新一の事が、好きなの。」


そう伝えると新一は目を見開いた。


「でも新一は、蘭の事が好きだと思ってたから。私が諦めないと、って思ってたの。」


そう笑っていえば、新一はんなわけねーだろ、と言いながら、席から立ち上がった。
それから私の隣に立つと、頭を抱え込むように抱きしめられた。


「新一、」

「俺は他の誰でもねー、オメーが好きなんだよ、楓。」


その温もりに、そっと目を閉じた。


嗚呼、幸せだなぁ、もう。


バーロー。それから、


(ありがとう。こんな私を好きになってくれて。)



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